皿のしいたけをよけながら別れを告げた俺が、最後まで言えなかった理由
転勤を言い出せなかった
地方支社への異動が決まったのは、半年前のことです。任期は4年。彼女に一緒に来てほしいとは言えませんでした。
彼女には彼女の仕事があります。家族もこちらにいます。俺の都合で生活を変えてほしいと言うのは違うと思いました。そう考える一方で、どこかでは引き止めてほしい気持ちもありました。
だから俺は、転勤の話をしないまま別れを切り出すことにしました。選んだのは、最初のデートで入った中華の店です。最後にするなら、2人の始まりだった場所がいいと考えていました。
言えたのは「お互いのため」
角の席で、いつもの八宝菜を頼みました。彼女は普段と同じようにビールを頼み、俺の様子を見ながら話していました。
料理が届いてから、俺は「もう終わりにしよう」と言いました。彼女はすぐに理由を聞きました。転勤のことを話すなら、そこしかありませんでした。
でも、俺の口から出たのは「お互いのためだと思う」だけでした。待ってほしいと言う勇気も、一緒に来てほしいと頼む覚悟もありませんでした。そのくせ、皿の中のしいたけだけは、いつも通り彼女の分までよけていました。
よけることより必要だったもの
「こんな時まで、よけてくれるんだ」と彼女が言いました。その言葉で、自分がどれだけ中途半端なことをしているか分かりました。
優しくしたいなら、本当の理由を話すべきでした。彼女を困らせたくないと言いながら、結局は自分が傷つく話から逃げていました。
別れてから3週間が経っても、俺は同じ店に行くことがあります。1人で八宝菜を頼むと、気づけばしいたけを皿の端に寄せています。彼女のためではありません。言えなかったことを、自分で確かめているだけです。
そして...
辞令の話を言わなかったことを、今も後悔しています。引き止めてほしかったと口にしていたら、別の話し合いができたのかもしれません。
けれど俺は、彼女に選ばせる前に、自分で終わりを決めました。そのくせ最後まで優しい人のままでいようとしました。
皿に残るしいたけを見るたび、あの日の自分を思い出します。必要だったのは、よける手ではありませんでした。言いにくい理由でも、彼女に渡すべき言葉があったのだと思います。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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