「少しだけ、時間をもらえないかな」告白を保留した彼が、私の帰り道だけは覚えていた
返事の代わりに返ってきた言葉
「ずっと前から、あなたのことが好きでした」
声が思ったより小さくなってしまったけれど、最後まで言いきりました。彼はすぐには口を開かず、足元のあたりに目を向けていました。少しの間があって、返ってきたのは「少しだけ、時間をもらえないかな」というひとことです。
断られたわけではない。けれど、うなずいてもらえたわけでもない。私はどう受け止めればいいのかわからないまま、いつもの角で彼と別れました。
答えのないまま続く道
それからも、帰り道は何も変わりませんでした。彼は同じ改札で私を待ち、商店街のアーケードを並んでくぐります。私が自販機で温かい缶を選ぶと、彼は何も言わずにもう一本を買って渡してくれました。角のパン屋の前で私が立ち止まる癖まで、彼は覚えているようでした。
こんなに細かいことを覚えているのに、どうして肝心の返事だけくれないのだろう。隣を歩きながら、私はそんな気持ちがずっと腑に落ちませんでした。覚えていてくれることが、かえって私を遠ざけているように感じたのです。
彼が黙っていた理由
答えを聞けたのは、それから何日か過ぎてからでした。いつもの角の手前で、彼は立ち止まって私のほうを向きました。
「異動の話が出ていて、すぐに返事ができなかったんだ」
遠い場所へ移るかどうか、自分でも決められずにいたのだと、彼は言いました。中途半端な返事で私を振り回したくなかったのだと。そして、この街に残る道を選んだと続けました。
「これからも、君と同じ道を帰りたい」
その言葉でようやく、保留の意味がほどけていきました。
そして...
あの角で別れるたびに、私は突き放されたように思っていました。けれど彼は、別れ際のその道ごと、私を引き止めるために迷っていたのです。覚えていてくれた帰り道は、答えを先延ばしにした証ではなく、答えを探していた時間でした。今は、同じ角に着く前に、私のほうから彼の歩幅に合わせています。
(20代女性・会社員)
本人記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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