彼女の発言だけ議事録から消していた僕が、最後まで言えなかった理由
彼女が、まっすぐ手を挙げた
その日の会議で、彼女が思いきって手を挙げたのが分かりました。
「このスケジュールだと、現場が回らなくなります」
はっきりとした声でした。正しい指摘だと、僕も思いました。けれど同じ会議には、人の意見を正面から退け、あとから自分の手柄にしてしまう先輩がいました。
以前、彼女の提案がその人にいいように使われ、彼女だけが評価を落とした場面を、僕は見ています。記録を取りながら、僕の頭をよぎったのは、また同じことが起きるかもしれない、という不安でした。
彼女の名前を、残せなかった
だから僕は、彼女の発言を、議事録からそのまま外すことにしました。彼女の名前で記録が残れば、あの先輩の目に留まってしまう。そう考えたのです。
代わりに、似た指摘を僕自身の言葉として別の機会に持ち出し、彼女が矢面に立たずに済むようにしようと思っていました。
今思えば、それは独りよがりな判断でした。彼女に一言も相談せず、彼女の言葉を勝手に間引いていたのですから。守っているつもりで、僕は彼女から発言の場を奪っていたのかもしれません。
問い詰められた日のこと
彼女が思いつめた表情で、僕に尋ねてきました。
「どうして私の発言だけ、消したの?」
本当の理由を話せば、彼女を心配させてしまう。先輩の名前を出せば、社内のことに彼女を巻き込んでしまう。そんな言い訳が頭の中で渦巻いて、僕の口から出たのは短い一言でした。
「君の名前で残すと、面倒なことになると思ったんだ」
彼女の顔が、見るからにこわばりました。きちんと説明する勇気が、そのときの僕にはなかったのです。
そして...
僕がしたことは、彼女を信じきれていなかったことの裏返しだったのだと思います。彼女なら、自分の力で切り返せたかもしれないのに、僕は先回りして、その機会ごと消してしまった。
守りたかったのは本当です。でも、どう守るかを彼女と決めなかった時点で、それはただの押しつけでした。次に会ったら、全部話そうと決めています。先輩のことも、僕が勝手に間引いていたことも。
そのうえで、君の意見は君の名前で残すべきだと、自分の口で伝えたい。消した一行を取り戻すことはできません。それでも、彼女の言葉を二度と消さないことが、僕にできるせめてもの償いです。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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