本当は別の花束を隠していた。初めて行く彼女の部屋で、僕は前の住人宛ての花を渡してしまった
ずっと前から決めていた、彼女への花束
彼女と付き合って半年、初めて部屋に招いてもらえることになり、僕は何日も前から渡す花を考えていました。気取りすぎても変だし、地味すぎても寂しい。花屋の店先で長いこと迷って、彼女が好きだと言っていた色の花束をようやく選びました。
正直に言えば、花を渡すなんて柄じゃないと自分でも思っていました。それでも、初めての日くらいは、ちゃんと気持ちを形にしたかったのです。紙袋の中で花がつぶれないように、僕は道中ずっとそれを抱えていました。
入り口に残されていた、前の住人宛ての花
彼女のマンションに着いたとき、入り口の集合ポストの脇に、花束が一つ置かれているのに気づきました。宛名を見ると、前にこの部屋に住んでいた人の名前で、受け取り手がいないまま忘れられているようでした。
そのまま枯れていくのかと思うと、なんだか見過ごせませんでした。少し考えて、僕はその花束も一緒に持って上がることにしたのです。今思えば、これが全ての始まりでした。
肝心の花束を、出せないまま
ドアが開いて彼女の顔を見た瞬間、僕は急に自分の花束が大げさすぎる気がして、紙袋を背中に隠してしまいました。代わりに手が伸びたのは、入り口で拾った花のほうでした。
「この名前、私じゃないよね?」と彼女に聞かれて、僕はうまく説明できませんでした。「ああ、前の人のだと思う。下に届いてたみたいでさ」「もったいないから、持ってきた」
本命の花束を出すきっかけを、自分でつかみ損ねていたのです。彼女が「そっか、ありがとう」と笑ったとき、その笑顔が少しだけ硬いことに、僕は気づいていました。
そして...
結局、紙袋の中の花束は、最後まで彼女に渡せませんでした。タイミングを逃したまま帰り道を歩いて、家に着いてから、しおれかけた花を一人で水に挿しました。
彼女を喜ばせたかっただけなのに、僕は肝心なところで臆病になってしまう。拾った花を持って上がった優しさのつもりが、彼女を傷つけていたのだと、あとになって思い知りました。
次に会うときは、隠したりせず、まっすぐ渡そうと思います。今度こそ、ちゃんと「君に選んだ花だよ」と言えるように。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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