『言わないこと』をリストにして溜め込んでいた僕。彼女に見つかって気づいたこと
飲み込むことを覚えた理由
小言を言いかけて、ぐっと飲み込む。それが癖になったのは、彼女と暮らし始めてからでした。皿が流しに残っていても、休みの過ごし方が噛み合わなくても、口に出す前に一度立ち止まる。言いたいことは、スマホのメモに書いて逃がすようにしていたのです。
きっかけは、自分の父でした。父は母の些細なことをいつも言葉でとがめる人で、家の空気はいつもこわばっていました。あんなふうにはなりたくない。彼女に小言をぶつける自分を想像するたびに、僕は口を閉じることを選んできました。
『言わないこと』に並べた言葉
メモはいつしか一つのリストになり、僕はそこに『言わないこと』と名前をつけました。「皿のこと」「休日のこと」「お金のこと」「将来のこと」。彼女への不満や、言い出せない心配ごとを、短い言葉だけ並べていたのです。お金のことは、二人の貯金がなかなか増えないのが気がかりでした。将来のことは、そろそろ次の話をしたいのに切り出せずにいた弱さです。どれも彼女を責める言葉になりそうで、飲み込むことで平穏を保っているつもりでした。そのリストが二人の共有のメモに紛れていたなんて、見つかるまで気づきもしませんでした。
彼女に問い詰められて
帰宅した僕に、彼女はスマホの画面を見せてきました。「ねえ、この『言わないこと』って、何?」。責めるというより、不安そうな声でした。隠していたものを言い当てられて、僕は気まずさから目をそらしてしまいます。それでも観念して、「君を、責めたくなかったんだ」と本当のことを口にしました。続けて、「言わないでいれば、ケンカにならないと思ってた」と。けれど言葉にした途端、それがただの言い訳に聞こえました。彼女を思っていたつもりで、僕は彼女と向き合うことから逃げていただけだったのです。
そして...
彼女は少し黙ってから、「言ってくれた方が、よかったよ」と言いました。責められるより、その一言のほうがこたえました。黙っていることを優しさだと思い込んでいた自分の浅さを、突きつけられた気がしたからです。父のようになりたくない一心で、僕は言葉を飲み込み続けてきました。けれど何も言わないことは、彼女を大事にすることとは違ったのです。リストの中身は、これから二人で一つずつ話していくことにしました。『言わないこと』は、僕が彼女と話すことをようやく覚えるための、入口だったのだと思います。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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