彼女のコートを別室へ運んだ僕。クローゼットを開けられなかった理由
彼女のコートを抱えたまま
久しぶりに彼女を部屋に招くことになって、僕はずっと落ち着きませんでした。来てくれるだけでうれしいのに、どこかそわそわしてしまう。玄関で彼女が上着を脱いだとき、僕はとっさに「貸して」と手を伸ばしていました。
本当なら、コートは玄関のクローゼットにきちんと掛けるべきです。けれど僕はそうせず、自分のジャンパーだけをいつものフックに掛け、彼女のコートを抱えたまま廊下の先の部屋へ運び、ドアを閉めて戻りました。
彼女が何か言いたげにして、それでも飲み込んだのが、こちらにも分かりました。
クローゼットの中の、片づけられない過去
あの玄関のクローゼットには、以前付き合っていた人が置いていったコートが、まだ掛かったままなのです。別れて部屋を出ていくとき、慌ただしくて持ちきれなかったのか、一着だけ残されてしまいました。連絡を取って返すのも気まずくて、処分する踏ん切りもつかず、僕はずっとその扉を見ないふりで過ごしてきました。
新しく好きになった人のコートを、その隣に並べて掛けるなんて、どうしてもできません。だから別の部屋へ運んだのです。
彼女を大切に思うがゆえの行動のつもりでした。けれど、片づけられずにいるのは、ただの僕の弱さでしかありません。
「そのほうがいいと思って」では届かなかった
リビングで過ごしていると、彼女がためらいがちに「私のだけ、別の部屋なんだね」と言いました。きちんと話すなら、ここしかありませんでした。それなのに僕の口から出たのは、「そのほうがいいと思って」というそっけない一言だけ。あのクローゼットの中身を打ち明ける勇気が、どうしても持てなかったのです。
彼女の表情がふっと曇っていくのが、向かいの席からはっきり見えました。守っているつもりの自分の振る舞いが、彼女には突き放されたように映っているのだと、そのとき初めて気づきました。
そして...
彼女が帰ったあと、僕はずっと閉めたままだったクローゼットの扉を開けました。中に残っていたコートを畳んで、片付ける箱にしまいます。本当は、もっと早くにやっておくべきことでした。過去を残したままだったのは、彼女のためではなく、面倒なことから目をそらしていた僕自身のためです。
次に会ったら、別の部屋に運んだ理由を、格好をつけずに全部話そうと思います。情けない事情だとしても、隠したままにしておくより、ずっといい。僕にとって彼女が、隣に並べたい大切な人だと伝えるために。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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