「一人で行ったんだ」と答えた僕が、本当は伝えられずにいた一人の時間のこと
紛れ込んだ一枚
水族館で撮った写真は、どれもよく撮れていました。お揃いのキーホルダーを並べた一枚は、彼女もきっと気に入ってくれると思ったのです。僕はスマホの中の写真をまとめて選び、共有のリンクにして送りました。
あとから思えば、その中に、一人で行った先で撮った一枚も、いっしょに選んでしまっていたのです。白い壁に掲げられた、写真展の看板の写真でした。ふと目に留まって撮っただけの、なんでもない一枚だったのです。
一人で出かけた理由
付き合う前から、僕は時々一人で写真展や美術館をまわるのが好きでした。誰かと予定を合わせるのではなく、自分のペースで作品の前に立つ時間が、頭の中を整えてくれていたのです。彼女と過ごす時間はもちろん楽しい。それでも、一人になりたいと思う自分がいることを、うまく言葉にできずにいました。
好きな人がいるのに一人の時間を求めるなんて、薄情なのではないか。そんな思いから、あの展示に行ったことも、彼女には伝えていなかったのです。
「一人で行ったんだ」と答えて
彼女がスマホの画面を見せながら、できるだけ普段どおりを装うような声で聞いてきました。
「この看板の写真、誰と行ったの?」
その瞬間、共有したアルバムにあの一枚が紛れていたことに、はっきりと気づきました。僕は少し迷ってから、「一人で行ったんだ」と正直に答えました。嘘ではありません。
けれど、なぜ一人で行ったのか、その理由まではうまく説明できませんでした。彼女の表情がほっとしたようで、それでいてどこか晴れないままなのが、僕にもわかりました。
そして…
一人で行った、と伝えただけでは足りなかったのだと、あとになって思いました。彼女を不安にさせたのは、展示に行ったことそのものではなく、それを話さずにいた僕の態度だったのです。
数日して、僕は思いきって「あの写真展のこと、ちゃんと話したいんだ」と自分から切り出しました。一人で作品の前に立つ時間が昔から好きなこと、それを言い出すのが後ろめたかったこと。うまくはないなりに、ひとつずつ言葉にしてみたのです。
彼女は「話してくれてうれしい」と笑ってくれました。一人で過ごしたい日があることも、これからはきちんと言葉にする。そう決めました。次に出かけるときは、看板の前で撮った写真を、自分から見せようと思います。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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