別れた彼が荷物を全部返してきた。でも最後に渡した手紙だけが、どこにもなかった話
別れの日のこと
別れを切り出したのは、彼のほうでした。二年半付き合って、大きな喧嘩をしたわけでもありません。向かい合って座ったテーブルで、彼は私の目をまっすぐ見て言いました。「これ以上一緒にいても、君を幸せにできない気がするんだ」優しい言い方のようでいて、私の気持ちは置き去りにされた一方的な結論でした。
私はうなずきだけで応えるのが精一杯でした。言いたいことは山ほどあったのに、その場では伝えられません。だから数日かけて、便箋に手紙を書きました。感謝と、まだ消えない気持ちと、それでも前を向こうという思いを綴り、最後にこう書き添えたのです。「あなたと過ごした時間を、私は後悔していません」。その手紙を、私は彼に手渡しました。
几帳面に返ってきた荷物
箱の中身を畳に並べてみて、私は彼らしいと思いました。忘れていた小さなヘアゴムひとつ、貸したままだった文庫本、いつかあげたマグカップまで、ていねいに包まれて入っていたのです。彼は昔から、物の管理がきちんとした人でした。別れたあとも、その几帳面さは変わらないようです。けれど、ひとつ残らず返されたその完璧さが、かえって私の心に小さなとげのように残りました。まるで、彼と過ごした時間そのものを、ひとつずつ箱に戻して送り返されたようでした。きれいに整えられた荷物を前に、私はしばらくその場に座り込んでいました。
ひとつだけ、戻らなかったもの
すべてを並べ終えても、あの手紙だけが見つかりませんでした。何度も箱をひっくり返し、底に貼りついていないかも確かめました。それでも、ありません。ほかのものは、いらないとばかりにすべて返したのに、私が心を込めて書いた手紙だけが戻ってこない。
彼にとってあの言葉は、わざわざ返す価値もないものだったのかもしれない。そう思うと、別れを告げられたとき以上に、自分そのものを否定された気がしました。小さなヘアゴムよりも軽く扱われた、私の本心。あの手紙はもう捨てられてしまったのだと、私は思うしかありませんでした。
そして...
結局、手紙の行方を彼に聞くことはしませんでした。聞いたところで、私たちの関係はもう終わっているのですから。あの手紙に何を書いたか、私はちゃんと覚えています。後悔していないと書いたのは、本当の気持ちでした。たとえ彼があれを捨てていたとしても、私が彼を想って過ごした日々まで、なかったことにはなりません。からっぽになった箱を片づけながら、私は少しだけ笑えました。返ってこなかった一通のぶんだけ、私はあの恋をちゃんと生きたのだと思えたからです。次に誰かを好きになるときも、私はきっとまた、まっすぐに手紙を書くのでしょう。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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