「育児は協力してます」と投稿した夫。写真の片隅に映っていたのは、洗い物をする私でした
写真のための数分間
その日、ようやく息子が眠ってくれて、私はたまっていた哺乳瓶をシンクで洗っていました。手を動かしていると、ソファでスマホを見ていた夫が立ち上がり、こちらへ近づいてきました。「ちょっと抱っこさせて、写真撮るから」。そう言って、夫は眠っている息子をそっと抱き上げます。窓を背にして息子を抱え、自分で何枚か写真を撮ると、夫はすぐに息子を私の腕へ戻しました。そしてまたソファに座り、スマホの画面に視線を落としたのです。私は、まだ半分残った洗い物に向き直りました。
「いいね」が並ぶ投稿
少しして手が空いたとき、SNSを開くと、先ほどの写真が投稿されていました。「育児に協力してます」。短い言葉とともに並んだ写真には、もう何十もの「いいね」がついています。「素敵なパパ」「理想のご主人ですね」。知らない人たちのコメントが、どんどん増えていきました。協力。その言葉を、私は何度も見返しました。夜中の授乳も、毎日の哺乳瓶洗いも、保育園の支度も、ほとんど私が一人でしてきたことです。夫がしたのは、眠っている息子を数分だけ抱いて、写真を撮ること。それでも世間から見れば、彼は立派な父親なのだと思い知りました。
ガラスに映っていたもの
投稿を眺めていると、新しいコメントが一件、目に留まりました。「後ろのガラスに映ってるの、奥さんですか?」。言われて写真をよく見ると、夫の背後の窓ガラスに、部屋の明かりでうっすらと室内が映り込んでいたのです。そこにいたのは、シンクの前で背中を丸め、洗い物をする私の姿でした。笑顔で息子を抱く夫の、すぐ後ろに。そのコメントを境に、ほかの人たちも気づきはじめます。「あれ、奥さんが家事してませんか?」「これが協力なんですか?」。並んでいた称賛コメントが、少しずつ違う色に変わっていきました。
そして...
それから少しして、コメントを見た夫が、洗い物をしていた私のところへ来ました。「ごめん。ずっと君に任せきりだった」。返ってきたのは、いつになく素直な声でした。写真を消すかどうか、私はあえて聞きませんでした。消したところで、あの一枚が映していたものは変わらないからです。ただ次の日から、夫は何も言わずに哺乳瓶を洗いはじめました。カメラを向けることもなく。私が本当にほしかったのは、立派なパパの写真ではなく、この当たり前の後ろ姿だったのだと思います。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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