同棲前の荷造りで私の本だけ別の箱に分けた彼。素っ気ない一言に、突き放された気がした話
別にされた一箱
新しい部屋で一緒に暮らすために、私の荷物を二人で詰めていました。食器も服も小物も、彼は手際よくまとめてくれます。
けれど私の本を見つけると、彼はそれだけをほかの箱から取り分け、新しい段ボールを一つ用意しました。学生時代から少しずつ集めてきた本でした。何度も読み返した小説も、表紙が日に焼けた古い文庫もあります。
私の本だけが、ほかの荷物と違う場所にまとめられていく。その光景が、なぜか引っかかりました。
「本は別にしておきたくて」
気になって、私は彼に聞きました。「これ、どうして別の箱にするの?」
すると彼は手を止めずに、「本は別にしておきたくて」とだけ答えました。理由を聞いたつもりでしたが、返ってきたのは短い言葉だけ。それ以上は何も続きませんでした。
私の本は、二人の暮らしには混ぜたくないということなのだろうか。彼にとっては邪魔な荷物に見えているのかもしれない。考え始めると、いろいろな想像が膨らんでいきました。
同棲という新しい一歩の前で、自分のいちばん好きなものだけに線を引かれた気がして、私はそれ以上聞くのをやめてしまいました。
新しい家で
引っ越しの日、荷物を運び込むと、彼はまっすぐにあの本の箱へ向かいました。そして窓際のいちばん日当たりのいい場所を指して、「ここ、空けておいたから」と言ったのです。
そこには、私の本がちょうど収まる大きさの棚が、きれいに整えて置いてありました。彼は箱を開け、私の本を一冊ずつ、ていねいに並べ始めます。日に焼けた古い文庫も、表紙の傷んだ小説も、まるで大事なものを扱うような手つきでした。
その背中を見ているうちに、荷造りのときに感じた引っかかりが、少しずつほどけていくのを感じました。
そして...
彼はどうして、あのとき素っ気なかったのだろう。今でもはっきりとは分かりません。けれど、私の本が、いちばん見てもらえる場所にすべて並んだとき、私は彼に「ありがとう」と伝えました。
あれは線を引かれたのではなく、たぶん別の意味があったのだと思えたからです。本当の理由は、聞けばすぐに分かったのかもしれません。それなのに勝手に傷ついて、口を閉ざしてしまったのは私のほうでした。
これから始まる暮らしでは、もう少し自分から尋ねてみよう。窓際に並んでいく背表紙を眺めながら、私はそっとそう決めたのです。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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