彼女の荷物を全部箱に詰めたのに、合鍵だけはどうしても入れられなかった僕
一つずつ新聞紙でくるんだ荷物
別れたあと、彼女の私物を返すと決めてから、僕は休みの時間を使って荷造りをしました。部屋着、充電器、読みかけの本。雑に詰めて送りつけるような真似だけはしたくなくて、一つずつ新聞紙でくるみ、隙間ができないように箱へ並べていきました。
別れ話のときはうまく気持ちを伝えられず、ぎこちないまま終わってしまった。その後ろめたさもあって、せめて荷物くらいはきちんと返したかったのです。
手のひらに残った合鍵
ほとんど詰め終えたとき、机の上に残っていた合鍵が目に入りました。付き合い始めた頃、彼女が「これ、合鍵。いつでも来ていいよ」と渡してくれたものです。そのときのうれしさは、今もはっきり覚えています。
その鍵を、ほかの荷物と同じように箱へ入れる。たったそれだけのことが、どうしてもできませんでした。段ボールに鍵を収めた瞬間、二人で過ごした時間まで一緒に送り返してしまう気がしたのです。
ほどなくして彼女から、「荷物、届いたよ。ありがとう。でも、鍵だけ入ってなかったみたい」とメッセージが来ました。本当のことを打ち明ける勇気が出ず、僕は「ごめん、それはまた今度返す」とだけ送りました。
送った直後から、自分の素っ気なさが嫌になりました。
結局、別の封筒で送った
鍵を手元に残したところで、彼女を落ち着かない気持ちにさせるだけだと、頭ではわかっていました。自分が手放したくないという理由で相手を不安にさせるのは、いちばんずるいやり方です。
それでも数日、僕はその鍵を机に置いたままにしていました。何度も封筒に入れようとしては、また取り出して。最後に、メモを一枚そえて送ることにしたのです。
「あの鍵だけ、箱に入れられなかった」
言い訳めいたことを長く書く気にはなれず、書けたのはその一行だけでした。
そして...
封筒をポストに入れたあと、僕はようやく一区切りついた気がしました。彼女に渡された鍵を、最後まで物として扱えなかった。それくらい、彼女と過ごした時間が自分にとって大切だったのだと、返すときになって思い知ったのです。
本当は、素っ気ない返事を送る前に、きちんと言葉にすればよかった。手放せない弱さを、相手を不安にさせる形でしか表せなかった自分が、今も少し情けなく思えます。それでも、あの鍵を雑に送り返さなかったことだけは、間違っていなかったと信じています。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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