「何もしなくていい旅にしたかったんだ」彼女の欄を空けた本当の理由を、僕は言いそびれていた
全部、自分の担当にしたかった
彼女は最近、仕事に追われてくたくたでした。だからこの旅行くらいは、何ひとつ気を使わず、ただ楽しんでほしい。そう思って、僕は担当をすべて自分の名前で埋めていきました。
運転も、宿の予約も、会計も、写真も、全部こちらでやればいいと考えたのです。最後に残ったのが、彼女の欄でした。「ゆっくり休む係」と書きかけて、消しました。それではまるで、彼女が役立たずだと言っているように読めないか。
「お客様」と書きかけて、また消しました。どう書いても、うまく伝わる気がしなかったのです。
伝えそびれたまま、旅は始まった
結局、答えが出ないまま、僕はしおりを送りました。
「旅行のしおり、作ってみたよ。見てみて」
会ったときに口で説明すればいい。そう思っていたのに、いざ顔を合わせると、なんだか照れくさくて、その話は後回しにしてしまいました。旅行が始まってからも、僕はとにかく動きました。荷物を持ち、手続きを済ませ、彼女が財布を出そうとすると「いいよ、僕がやるから。座ってて」と声をかけました。
喜んでくれていると思っていたのに、彼女の表情がどこか沈んでいるように見えます。理由がわからず、僕はただ気をもんでいました。
空白の意味を、やっと言葉にできた
宿に荷物を置いたあと、彼女のほうから切り出してきました。
「しおりの係の欄、私のところだけ空欄だったよね」
それを聞いて、僕はようやく気づきました。彼女はあの空白を、ずっと気にしていたのだと。僕は慌てて答えました。
「気づいてたんだ。あの欄は、わざと空けてたんだよ」
それから、本当の気持ちを口にしました。「最近ずっと忙しそうだったから。何もしなくていい旅にしたかったんだ」
彼女の表情が、ふっとやわらぐのがわかりました。よかれと思って空けた欄も、言葉にしなければ、ただの冷たい余白に見えていたのだと、このとき初めて知りました。
そして...
あの欄を空けたのは、彼女を大切に思っていたからでした。それなのに、僕はその気持ちをひとことも添えませんでした。気遣いは、言葉にしなければ、相手には違った形として届いてしまう。当たり前のことに、ようやく気づかされました。
帰り道、彼女は「次の旅行では、私にも係をちょうだいね」と笑ってくれました。不器用な気遣いに、彼女が気づいてくれたこと。それが、この旅でいちばんの収穫でした。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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