好きな子の差し入れだけ、わざと名前を言わずに配った僕の言い訳
いつも通りのはずだった
僕が勤める職場では、誰かが差し入れを持ってくると、手の空いている人が配るのが習慣のようになっています。たまたま通りかかった際に、給湯室で箱を開けている彼女を見かけたので、「配るの手伝うよ」と引き受けました。給湯室に並んだお菓子を一つずつ配って回ることになり「これ、先輩からの差し入れだよ」。そう言いながら、誰が持ってきたのかを伝えて渡していきます。受け取った相手が笑ってくれるのが、僕は嫌いではありませんでした。
名前を言えなかった理由
少し前のことです。彼女が差し入れを持ってきたとき、近くにいた何人かが小声で「また差し入れ?あの子、わかりやすいよね」と言っているのを、僕はたまたま耳にしていました。からかうような口ぶりでした。だから今回、彼女の焼き菓子を配る番になったとき、僕はとっさに名前を伏せました。彼女が気になっていると、これ以上みんなに知られて、笑いものにされてほしくなかったのです。「よかったら、どうぞ」。そう言って渡しながら、本当はもう一つ、別の気持ちもありました。彼女の名前を口にしたら、自分の想いまで声に出てしまいそうで、それが怖かったのです。
うつむく背中
配り終えてふと振り返ると、彼女は給湯室で空になった箱を片づけていました。さっきまでの表情とは違って、どこか元気がないように見えました。僕が名前を言わなかったことに、気づいていたのだと思います。守ったつもりでした。でも、彼女が本当はどうしてほしかったのか、僕は一度も聞いていませんでした。勝手に良かれと判断して、その実、自分の弱さも一緒に守っていただけなのかもしれません。
そして...
あのとき声をかけて、きちんと説明すればよかったのだと思います。でも、片づける背中に「さっきはごめん」と言うタイミングを、僕は逃してしまいました。次に彼女が差し入れを持ってきたら、今度はちゃんと名前を呼ぼうと思います。「これ、彼女が作ってくれたお菓子だよ」と。そしてできれば、隠していた気持ちも、自分の言葉で伝えたい。臆病な自分を変えるのは、たぶんそこからなのだと思っています。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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