彼の新しい財布に入っていたのは、私の写真ではなく一枚の古いレシートだった
移されなかった一枚の写真
以前、二人で撮った写真をプリントして、冗談半分で「財布に入れてよ」と渡したことがあります。彼は照れながら、財布のカード入れにそっとしまってくれました。それからその写真は、彼の財布の定位置になっていたはずでした。けれど、新しい財布に移されていく中身の中に、あの写真の姿はありません。代わりに彼が大事そうに差し込んだのは、折り目だらけの、色あせた一枚のレシートでした。
写真より大事だという、その言葉
思わず、軽い口調を装って聞いてみました。「あの写真は、入れないの?」。彼は手を止めずに、こともなげに答えます。「写真はいいよ。それより大事なものが入ってるから」。その「大事なもの」が、さっき差し込んだレシートを指していることは、すぐにわかりました。私の写真より、いつのものかもわからない紙切れのほうが大事だという意味に聞こえて、言いようのない寂しさが広がっていきます。
捨てられない、という答え
「そのレシートのほうが大事なの?」。彼はレシートを指でなぞりながら、ぽつりと言いました。「うまく言えないんだけど、捨てられないんだ」。捨てられない、という言葉だけが、やけに耳に残りました。私との写真は当たり前のように外せるのに、その紙切れだけはどうしても手放せない。そこにどんな思い出があるのか、私はまだ何も知らないのだと気づきました。
そして...
本当なら、その場でもっと問いただしたかったのかもしれません。でも、レシートを見つめる彼の横顔が、思いのほか優しかったのです。きっと、私の知らない大切な何かが、あの紙切れには詰まっているのでしょう。そう思えたとき、勝手に傷ついていた自分が、少し恥ずかしくなりました。今度は寂しさをぶつけるのではなく、「そのレシート、どんな思い出なの」と笑って聞いてみようと思います。私の写真とその思い出が並ぶ日も、そう遠くない気がしました。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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