「誰と来ても同じだろ」元カノと来た、美味しい店で言い切った俺→失って初めて気づいた替えのきかない時間
彼女に教えたかった店
俺にとってその店は、間違いのない一軒でした。味も雰囲気もよくて、大切な日に使うにはちょうどいい。彼女に喜んでほしくて、奥の席を予約しておいたのです。案内されるより先に席へ向かったのも、それだけ通い慣れていたからでした。料理を待つあいだ、窓の外の景色に見覚えがあって、つい口をついて出ました。
「ここ前来たよね」
彼女は不思議そうに「え、来てないけど」と返してきます。その瞬間、俺は自分の勘違いに気づきました。ここへ来ていたのは彼女とではなく、別の相手とだったのだと。とっさに笑ってごまかしましたが、彼女が納得していないのは横顔を見ればわかりました。
便利な情報のつもりだった
正直なところ、ごまかすこともできました。でも俺の中で、いい店を覚えておくのは元カノとの思い出というより、便利な情報のようなものでした。だから聞かれたら答えるつもりでいたのです。
案の定、彼女は食事の途中で「ここ、誰と来てたの?」と尋ねてきました。俺はワインを飲みながら、ありのままを伝えました。
「ああ、元カノと何回か。いい店だから覚えてたんだ」
今はもう連絡も取っていない、終わった相手の話です。それを今さら気にする意味が、俺にはわかりませんでした。彼女の表情がこわばっていくのを見ても、どこか他人事のように感じていたのです。
同じだと思っていた
黙り込む彼女に、俺はつい本音をぶつけてしまいました。
「なんで怒ってるの?別に今会ってるわけじゃないし」
それでも彼女は、好きな人と特別な時間を過ごしたかっただけだと言います。その感覚が、俺にはどうしてもわかりませんでした。だからこう返したのです。
「誰と来ても同じだろ。いい店はいい店なんだから」
すると彼女は、まっすぐ俺の目を見て言いました。
「うん、いい店はいい店。だったら私も、相手はあなたじゃなくていい。誰と来ても同じなんでしょ?」
伝票を俺の前に置いて席を立つ彼女を、俺はただ見ているだけでした。
そして...
一人になった店で、俺は彼女の言葉を何度も思い返しました。店を「便利な情報」としてしか見ていなかった俺と、隣に誰がいるかですべてが変わると知っていた彼女。同じ料理を前にしても、二人が見ていたものはまるで違ったのです。
彼女にとっての特別を、俺は「いい店」というひとことで踏みつけていました。誰とでも取り替えのきく場所ではなく、その人とだけの時間を選べる人になりたい。彼女が残したあの一言の意味にようやく追いついたのは、もう取り返しのつかなくなった後でした。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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