彼が予約した記念日のお店で「ここ前来たよね」→3年分の恋が音もなく終わった瞬間
初めてのはずのお店で
テーブルにつくと、彼はメニューを開くこともなく注文を済ませました。雰囲気のいい隠れ家のようなイタリアンで、店員さんも彼に親しげな様子です。料理を待つあいだ、私はその慣れた振る舞いがどうしても気になっていました。やがて彼が窓の外を見ながら、ふとつぶやきました。
「ここ前来たよね」
私は思わず手を止めて、彼の顔を見ました。
「え、来てないけど」
私は、このお店に来るのは初めてだったのです。彼は一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに笑ってごまかしました。
彼だけが知っていた味
食事が進んでも、私の中の小さな引っかかりは消えませんでした。店員さんは彼に親しげに話しかけ、彼が頼んだのは私の知らない常連向けのメニュー。どう見ても、彼はこのお店に通い慣れているようでした。思い切って、私は尋ねました。
「ここ、誰と来てたの?」
彼はワインを一口飲んでから、少しも悪びれずに答えました。
「ああ、元カノと何回か。いい店だから覚えてたんだ」
その軽さに、私はかける言葉を探したまま、グラスの水面をただ見つめていました。
いい店だから、の意味
黙っている私を見て、彼はさらに続けました。
「なんで怒ってるの?別に今会ってるわけじゃないし」
私が、好きな人と特別な時間を過ごしたかっただけだと伝えると、彼は心底わからないという顔で言ったのです。
「誰と来ても同じだろ。いい店はいい店なんだから」
その言葉で、私はようやく腑に落ちました。彼にとっては、向かい合う相手は替えのきくものでしかなかったのだと。込み上げてきたのは怒りよりも、すっと冷めていく感覚でした。
そして...
私はグラスを置いて、まっすぐ彼の目を見て言いました。
「うん、いい店はいい店。だったら私も、相手はあなたじゃなくていい。誰と来ても同じなんでしょ?」
彼がぽかんと固まっているうちに、私は伝票を彼の前に置いて席を立ちました。そのまま振り返らずに、お店を出たのです。街を歩きながら、不思議と清々しい気持ちでいっぱいでした。
彼は最後まで、自分の何がいけなかったのか、わからない顔をしていました。けれど、その理由をわざわざ教えてあげる義理は、もうありません。誰かの思い出をなぞるだけの時間は、私にはもう必要ないのですから。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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