彼への「(笑)をつけないで」というお願いが、思わぬ形で返ってきた話
何を書いても「(笑)」がついていた
彼はメッセージの語尾に、いつも「(笑)」をつける人でした。
「好きだよ(笑)」「ありがとう(笑)」
付き合い始めた頃は、それも彼らしい照れ隠しだと思って受け止めていました。けれど「来年は一緒に住めたらいいな(笑)」の一文を読んだとき、私は返事に迷いました。本気なのか、冗談なのか。文末の「(笑)」がつくだけで、大事なことほど輪郭がぼやけてしまうのです。
考えた末に、私はメッセージを送りました。「メッセージに(笑)をつけないでほしいの」送信したあとも、入力欄のカーソルがしばらく点滅していました。
「(笑)」の代わりに届いたもの
私のお願いのあと、彼の返信は確かに変わりました。けれど、想像していた形ではなかったのです。
「今日のごはん、おいしかったね(今、笑っています)」
見慣れない一文に、思わず画面を見直しました。続けて届いたのは「会えてよかった(これは本気です)」「来週も楽しみにしてる(うれしいと思っています)」
「(笑)」が消えた代わりに、自分の状態をそのまま言葉にした、不思議な言い回しが並ぶようになりました。からかっているのか、お願いに真面目に応えているのか。読むほどに、どう受け取ればいいのか分からなくなっていきました。
窓際の席で聞いた理由
休日に二人で入ったカフェで、私は思い切って尋ねました。「あの言い方、どうしたの」コーヒーカップを手の中で回しながら、彼は視線を窓の外に向けてから、こう言いました。
「(笑)をつけてれば、何でも冗談にできたから」
その一言で、これまでの「(笑)」の意味がつながった気がしました。彼は本気を伝えるのが怖くて、いつでも引き返せるように予防線を張っていたのです。「(笑)」をやめた彼が選んだ、あの奇妙な言い回しは、逃げ場をなくした人の、精いっぱいの正直さだったのだと思いました。
そして...
「(今、笑っています)」という一文を、私はもう奇妙だとは思いません。むしろ、彼が言葉の裏に隠していたものを、ようやく見せてくれた合図のように感じています。
帰り道、私は彼に短いメッセージを送りました。
「あの言い方、嫌いじゃないよ」返ってきたのは「(本当に、うれしいです)」のひとこと。不器用で、まっすぐで、彼らしい返事でした。これからは、輪郭のぼやけない言葉を、二人で少しずつ重ねていけたらいいなと思っています。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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