妻の夜勤を『すれ違い夫婦』と噂する住宅街で、僕が玄関で続けていたこと
妻の白衣と、僕のエプロン
妻が看護師として働き始めてから、もう8年になります。当初は日勤だけでしたが、3年ほど前から夜勤シフトが入るようになりました。妻が夜勤の日は、帰宅が遅くなり、仮眠を取って次の勤務へ向かう生活になります。生活時間がずれる以上、誰かが家のリズムを保たないといけません。僕が玄関までの支度を全部引き受けることにしたのは、夫婦で話し合った末の自然な結論でした。
弁当箱を冷蔵庫から出し、息子の連絡帳を確認し、保育園バッグを玄関に並べる。最初は手際が悪くて遅刻ばかりでしたが、今ではうろ覚えの動作でもこなせるようになりました。
耳に入ってきた、ご近所の声
気づいたきっかけは、息子を保育園に送る道すがら、近所のママ友らしき人たちの会話が耳に入ったときでした。
「夜勤の奥さんって、家庭大丈夫なのかしら」「すれ違い夫婦よね」
僕の家のことだと気づくのに、数秒かかりました。直接何かを言われたわけではないけれど、ああ、こういう風に見られているのか、と。妻に話そうかと思いましたが、やめました。仕事を終えて帰ってきた妻に、ご近所の話で疲れを足したくはなかったのです。
気にしない、と決めて、僕は弁当箱に味噌汁を詰める作業に戻りました。
向かいの奥さんに、つい話したこと
ゴミ捨て場で向かいの奥さんと一緒になった日、彼女は少し驚いた顔で僕を見ました。
「奥様、夜勤大変ですね」
そう声をかけてくれた声は、どこか気まずそうにも聞こえました。噂を立てていた一人なのかもしれない。けれどわざわざ声をかけてくれたという事実のほうが、僕には重く感じられました。
「妻のおかげで、なんとかやってます。患者さんを見守る仕事なので、誰かがやらないと回らないですから」
言ってから、少し言いすぎたかと思いました。けれど向かいの奥さんは、深く頭を下げて、ゴミ袋を結び直してから家に戻っていきました。
そして...
家に戻ると、保育園に送り出す前の息子が、玄関で待っていました。
「パパ、ママは?」「もうすぐ帰ってくるよ」
僕がそう答えるのと、玄関の鍵が開く音が重なりました。仕事を終えた妻が、コートを脱ぎながら息子に微笑みかけます。「ママ、おかえり」息子のそのひとことが言える光景を、僕は守りたい。
誰かに「すれ違い夫婦」と笑われようと、毎日の支度を続ければ、いつか息子が大人になったとき、自分の家のことを誇りに思える日が来るはずです。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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