駅で迷子の彼女を救おうとして「何が見える?」と聞き続けたら、自分の方が駅を覚えていなかった話
「駅から出られない」というメッセージ
仕事を片付けて家を出る寸前、スマホが鳴りました。彼女からのメッセージで「方向音痴すぎて駅から出られない」と書かれていました。待ち合わせは新しくできたカフェで、僕は車で向かう予定。彼女は電車組です。
普段は冷静な彼女が、こうやって連絡してくる時は、本当に困っている時。地図のリンクを送っても彼女は地図が読めないのを知っていたので、僕は「何が見える?」と返信しました。実況中継してもらえば、なんとか案内できると思ったのです。
うろ覚えの駅構内
彼女からは「案内板とパン屋とエスカレーター」と返事が来ました。あの駅には何度か行ったことがあったので、なんとなく「パン屋なら出口は左じゃないかな」と返したのですが、これが半分以上は記憶の捏造でした。
「行き止まりだった」と返信が来た瞬間、自分の記憶があてにならないことを悟りました。それでも諦めきれず、「赤い看板ある?」「青い看板は?」「黄色は?」と当てずっぽうの質問を投げました。
正解の出口がどれかわからないまま、ただ彼女の不安を散らしたい一心で言葉を並べていたのです。
タクシーに飛び乗った
質問を10分ほど続けたあと、もう自分には案内できないと観念しました。「タクシーで迎えに行く」と送って、すぐに家を飛び出しました。自分の車を駐車場から出す時間も惜しかったのです。家から駅までは車で20分。彼女を30分以上待たせている計算でした。
タクシーの中で、彼女から「自力で出られた」とメッセージが届きました。慌てて「ごめん、待っててくれていいよ。もう出ちゃったから」と返信しました。良かったと思う反面、結局僕は何の役にも立たなかったのだなと、後部座席で項垂れました。地図アプリを開けば即座に解決していたはずの問題に、自分の中途半端な記憶で30分も付き合わせてしまった申し訳なさだけが残っていました。
そして...
カフェに着くと、彼女は先に席についていました。「ごめん、俺もあの駅うろ覚えで」と謝ると、彼女は「ナビより頼りなかったよ」と笑います。返す言葉もなく、「ナビには勝てないって最初から思った」とだけ返しました。
でも、彼女は怒っていませんでした。「すぐ駆けつけようとしてくれたのが嬉しかった」と言って、デザートのメニューを開きながら笑っています。地図アプリには負けたけれど、彼女の「困った」に飛び乗れる速度では負けなかった。そう思い込むことにした、ちょっと情けない夜でした。
(20代男性・IT系会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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