「参観日来ないでって言ったでしょ」前夜にそう言った私→翌日廊下に立つ母の姿に泣いた
母を強く突き放した夜
木曜の夜、母がリビングで「明日の参観日、5時間目だっけ?楽しみにしてるね」と話しかけてきました。私はスマホから目を上げずに「参観日来ないでって言ったでしょ」と返しました。前にも言ったのに、どうしてまた聞くのだろう、と苛立ったのです。
母は少しの間、黙ってから「わかった、行かないよ」とだけ答え、洗い物に戻りました。母の穏やかな声が、なぜか余計に私の気持ちを尖らせました。
父が単身赴任になってから2年、母は早朝のパートで家計を支えてくれています。それを知っているはずなのに、参観日の話になると、どうしても素直になれなかったのです。自室に戻っても、母の「わかった」という声が、頭の中で繰り返されました。
友人の小さな声で気づいた姿
翌日の5時間目、いつも通りの数学の授業でした。後ろを振り返ると、ちらほらと保護者の方が立っています。母がいないのを確認して、私は前を向きました。約束を守ってくれたのだ、と安心と寂しさが混ざり合いました。
授業の途中、隣の友人が小声で「あ、お母さん来てるよ」とささやきました。「来てない」と返そうとして、視線を廊下側の窓に向けました。母がそこに立っていたのです。
教室の中ではなく、廊下の奥の壁際に、母は一人で立っていました。袖口の擦り切れたベージュのコートのまま、こちらをじっと見つめています。私と目が合いそうになると、すぐに少し後ろに下がるのです。来ていないふりをしようとしているのだと、わかりました。
後ろに下がる背中
目で追ううちにわかりました。母はスーパーの早朝シフトのままの格好で、髪も整える時間がなかったのか、少し乱れています。パートを終えて家に寄らず、そのまま学校に向かったのです。
そして母は、教室には入らない場所をわざわざ選んでいました。「行かないよ」という約束を、自分なりに守ろうとしていたのです。それでも私の姿を一目見たくて、廊下の奥という中途半端な場所に立っていました。
教室を見渡す母の表情は、嬉しさよりも申し訳なさのほうが大きく見えました。教科書の文字が、ノートの上でぼやけて見えなくなりました。気づくと、ノートの上に涙が落ちていました。
そして...
チャイムが鳴って、私は廊下に出ました。母はまだ壁際にいて、私を見つけると、また一歩後ろに下がりました。私は走って母のそばまで行きました。母は私を見て「ごめんね、約束破っちゃって」と頭を下げました。
謝らなければならないのは私のほうなのに、頭を下げているのは母です。前夜に苛立ちをぶつけた自分の声が、今になって頭の中で何度も繰り返されました。
「来てくれて、ありがとう」。やっと出てきた言葉に、自分でも驚きました。母は私の顔を見つめてから、何度か頷きました。約束を破ってくれた母にこんなに救われる日が来るなんて、前の夜の私は思いもしませんでした。
(10代女性・中学生)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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