「転職5回は忍耐力なし」と書類で見送ってきた私が、最終面接で気づかされた話
「転職5回は忍耐力なし」が私のルールだった
採用は会社の生命線です。とくに中小企業にとって、人を一人雇うことの重みは大きい。だから私は、自分なりの判断基準を厳しく持ってきました。そのひとつが、「転職5回は忍耐力なし」というルールです。書類選考でその回数を超えていたら、内容を細かく見る前に見送ってきました。
理由はシンプルでした。「うちに来ても、また辞めるんじゃないか」。何百枚もの履歴書を見てきて、私は数字でその人を判断することに、なんの抵抗もなくなっていたのです。むしろ、それが効率的な経営判断だと信じていました。
部下が机に置いた、一通の履歴書
ある月の終わりに、人事の部下が一通の履歴書を私の机に置きました。「一度、本人と会ってみてほしい」と。書類を見ると、転職回数は5回。普段の私なら、その時点で見送っていた経歴です。
それでも部下が押してきた理由が気になって、もう一度ページをめくりました。退職理由の欄に書かれていたのは、会社の倒産、母親の介護、勤務先の閉鎖。事務的な文字の裏に、言葉では表せないものが詰まっているように見えました。「会ってみよう」と、その場で部下に伝えました。一次、二次の面接を通過した本人と、最終面接で会うことが決まりました。
履歴書の裏側にあった時間
応接室に入ってきた応募者の表情は、明らかに身構えていました。これまでの面接で、同じ質問を何度も浴びてきたのだろう。そう思った瞬間、私は自分が普段何百人にしてきたことを思い知らされました。
履歴書を改めて見つめながら、私は口を開きました。「5回の転職、全部理由がある。介護しながら働き続けたこと、倒産しても翌月には次を見つけたこと。あなたは逃げたんじゃない、生き抜いたんだ」。応募者は顔を上げず、机を見つめたまま、しばらく動きませんでした。その姿を見ながら、私は自分が今まで切り捨ててきた人たちの顔を、ひとり、またひとりと思い浮かべていました。
そして...
その日のうちに、私は採用を決めました。彼女が入社してしばらくしてから、私は彼女に採用担当を任せました。彼女は最初の仕事として、「転職回数だけで応募者を判断しないルール」を作ってくれました。
社内会議でそのルールを発表したとき、私は彼女に「これでいい」と伝えました。これまで私が見送ってきた何百枚もの履歴書のことを思うと、申し訳なさが残ります。それでも、過去を変えられない代わりに、これからの採用を変えていくことはできる。彼女のおかげで、私はようやくそのことに気づけたのです。
(50代男性・会社代表)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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