公立を選んでくれた長女に何も買ってあげられなかった日々。20年続けた密かな約束
公立を選んでくれた娘の背中
長女が高校3年生のとき、我が家の家計はぎりぎりでした。下の弟もすでに私立志望をはっきり口にしていて、夫と何度も話し合いを重ねた結果、長女には頭を下げてお願いするしかなかったのです。「家計のことを考えて、できれば国公立にしてほしいの」。あの日の自分の声を、今でも覚えています。
長女は少し黙ったあと、「わかった」とだけ言いました。それから受験までの半年、夜中まで机に向かう娘の後ろ姿を、私は廊下からそっと見つめていました。合格した日、本人より私のほうが泣いてしまったように思います。入学祝いには新しい服も腕時計も買ってあげられず、商店街で選んだ万年筆を一本だけ渡しました。
「弟にばかりお金をかけて」と泣いた娘
弟は大学3年生のとき、留学に行きたいと言い出しました。親として反対する理由が見つからず、私たちは長年の貯金を取り崩して送り出すことを決めたのです。長女には事前に詳しく伝えていませんでした。事後に話せば波風が立たないと思ったのは、私の判断ミスです。
ある日の夕食の席で、長女は震える声で言いました。「弟にばかりお金をかけて、私には何もしてくれなかったよね」と。私は箸を置いたまま、何も言い返せませんでした。「あなたの分も、見えないところで貯めているから」と説明したら、娘の怒りはもっと深くなる気がして、結局その夜も口を閉ざしてしまったのです。
2冊の通帳に込めた20年
実は、長女が大学に入学した年から、私は娘名義の通帳に毎月少しずつ積み立てを始めていました。同じ金額を、同じ日に、弟の通帳にも入れ続けたのです。表紙の裏には「姉の結婚資金・夢の応援金」と書きました。いつか娘が独立する日に渡せると信じていたからです。
弟の留学費用で家計が苦しくなった年も、その積み立てだけは止めませんでした。パートを増やし、自分の服を買うのをやめ、夫と協力して20年。それが、説明できなかった私のせめてもの誠意でした。
そして...
長女から「結婚するので実家の私物を取りに帰る」と連絡があった日、私はあの通帳をどう渡そうかと迷っていました。直接手渡したら、また「今さら」と泣かれるかもしれないと思って、結局その日も切り出せずにいたのです。
娘が二階で片付けをしている最中、引き出しを開ける音がしました。あの場所だ、とすぐにわかりました。私は思わず階段を上がります。襖を開けると、娘の手にはあの2冊がありました。私は「ずっと同じだけ愛してたのよ」と伝えました。娘が泣き、私も泣きました。20年言えなかった一言を、ようやく交わすことができた日でした。
(60代女性・パート)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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