フィレンツェのアルテとアートの関係 今も残る職人の歴史

フィレンツェの街を歩いていると、建物の一角に家紋を見ることができますが、他の街ではあまり見かけないものがあります。それは組合章です。13世紀頃から頭角を表してきたフィレンツェでは、1252年には24金のフィオリーノ金貨を造幣し、欧州の金融の中心となります。銀行、弁護士、医師に次いで商人も組合を作り、フィレンツェを繁栄へと導いていきます。
1295年以降は政治に参加するには組合に所属しなければならず、働かない貴族は困窮し、その一方で、商人が権力を掌握していきます。これは近隣の諸外国と異なり、商人が国を動かし統治していたことを意味します。
このような同業種組合「ギルド」をイタリアでは「アルテ」と呼びます。英語ではアートです。イタリア語のアルテの意味は幅広く、芸術や美術のほかに工芸や建設など人の手により作られるものに使われます。ラテン語ではアルス。物理的、精神的に何かを「創造」することを意味します。職人はアルティジャーノと呼びますが、これもアルテが派生したものです。
中世の高級アパレル
最盛期には21種類もの組合があり、財政豊かな大組合には、国際貿易、羊毛、絹織物、毛皮商などもありました。他国から仕入れたシルク、木綿、毛皮、宝石、染料などを、美しい毛織物、金糸を使った豪華な衣装、金銀細工、皮製品などの最高級品に仕立てます。お得意様は各国の王侯の宮廷人です。宮廷はファッションの中心であり、流行を生み出す発信地です。彼らに取り入り、織物、服飾、手袋、靴、貴金属類を販売し欧州市場を席巻していったのです。
伝統と文化の継承
老舗の国際貿易組合は洗礼堂の、財を極めた羊毛組合は大聖堂のスポンサーだったので、洗礼堂には組合のワシのシンボルを、大聖堂には羊のシンボルを今でも見ることができます。

現在はグッチ博物館になっている建物は、かつては裁判所としての役目も果たした、フィレンツェ商人たちの司法機関でした。いまでも正面右側にはフィレンツェを栄華に導いた組合の社章が一列に並び、オリジナルはグッチ博物館内で見ることができます。

16世紀になるとメディチ家が直轄の工房を抱え、そこで作られた高級手工芸品は、ときには晩餐(ばんさん)会に出席する貴賓の感嘆の的となり、時には大使への贈答品となり、財力と権力を誇示する役割を担っていました。今もフィレンツェには物作りの工房がありますが、伝統と文化を継承するためにずっと存続して欲しいものです。
(フィレンツェ在住ライター・いがらしようこ)
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