【漫画】「3.11を忘れてしまわないように…」東日本大震災で帰宅難民になりかけた漫画家の実話が話題に

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回ご紹介するのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の経験を描いた漫画『東日本大震災で帰宅難民になりかけた話』だ。

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作者は女性向けコミック雑誌『Comic Be』（ふゅーじょんぷろだくと）にて『ぷらっと江戸吉原 タイムトラベル案内帖』を連載中の漫画家・ナリムラさん。当時経験したことを未来へ伝えるために創作された同作は、Twitterで143.3万もの「いいね」を獲得。「漫画としてだけでなく、記録としても大事な作品だと思う」など、称賛のコメントが相次いだ。

電車内でスリに遭遇…　地震発生から帰宅までの道のり

当時、千葉県の実家から都内にある職場へ約90分をかけて通勤していたナリムラさん。東日本大震災が発生した日も、いつもと同じく東京のオフィスで仕事をしていた。

遅めの昼食をとったあとの14時46分、携帯電話のアラートが鳴り響く。大きな地震を察知した人の発した「みんな逃げるぞ！！！」という声に従い、ナリムラさんはオフィスから近くの駐車場に避難。その後、千葉へ向かう電車が運休したため帰宅できない状況に追い込まれる。

1人で行く当てを失ったナリムラさんは、17時ごろに職場仲間と合流。居酒屋で食事や携帯電話を充電させてもらった。しかしいつまでも居酒屋に留まるわけにもいかず、20時ごろにはオフィスに引き返して電車の運行再開を待ったという。

運行が再開されたのは22時30分のこと。しかし実家まで帰れる電車はなく、都内に住む親戚の家を頼ることになった。電車内ではスリに狙われたものの、なんとか盗難犯から逃れることに… 非常時での防犯意識の重要さを痛感した。

そして23時30分、親戚の家に到着。ネット環境が繋がりにくかったため、仙台が大きな被害にあったことは、親戚の家にあるテレビを観るまで知らなかったそうだ。

翌日、実家までの電車が復活して14時30分にようやく帰宅。地震発生から約1日ほどのことだった。なぜ自らの体験を漫画化しようと思い至ったのか、ナリムラさんに胸の内を聞いてみた。

100年後の人たちに向けたナリムラさんの想いとは…

――作中でも“記録を残す”という意味でレポート漫画を描いているとコメントしていますが、「東日本大震災で帰宅難民になりかけた話」を創作したきっかけや理由もぜひお教えください。

当時震災に遭ってから、この日のことは絶対に忘れないようにしようと思っていました。ただ、漫画にも描きましたが「私の経験なんて大したことないのではないか」「あの時大変な目にあった方がたくさんいたのに、居酒屋にいたなんて不謹慎ではないか」という気持ちが奥底にあり、作品として残すことには躊躇してしまっていました。

実際、被災地で身近な人を亡くされた方も大勢いらっしゃるし、当時震災直後のお花見自粛ムードを味わったりもしましたし。

でもあれから10年以上の時が過ぎて、震災の記憶がない子どもたちも成長していき、大きな体験談は記録に残るけど、些細な体験は発信しない限りいずれ忘れられていくんだな…と感じ、やっと描いて残しておこうと決意しました。

また、私は現在「ぷらっと江戸吉原 タイムトラベル案内帖」という、江戸時代の吉原を解説する漫画を連載させていただいており、資料を漁って当時の様子を調べて描くことが多いのですが「詳しい資料が残っていないのでよくわからない！」ということが多々あります。

なので、もし100年後に「東日本大震災当日の東京の様子を描きたい」という漫画家が出てきた時、こういう奴もいたし、都内はこういう感じだったっていう資料になればいいなとも思っております。

――描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい！」というポイントがあれば教えてください。

とにかく当時の様子を詳細に伝えようと思いました。「あの日こんなことが起きた」をいくつも提示することで、当時同じように東京にいた方には「そうだった！思い出した！」と、当時を思い出す手がかりにしてほしいし、それ以外の方にも些細なことでも「あの時こんなことがあったのか」と知って欲しかったからです。

ただ、絵のクオリティに関しては逆に簡略化するようにしました。仕事で執筆している漫画などと比べたら落書きに近いのですが、そこを細部までこだわるといつまで経っても完成しないし、綿密に描写しても当時を思い出して辛くなってしまう方もいるだろうと、なるべく生々しくしないように作画しました。

――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

シーンというよりあの日特に印象に残っている場面は、サブウェイに集まる外国の方の様子です。不思議な光景だったなー、でも私も海外で地震に遭ったら日本人がいそうな日本のチェーン店に駆け込むなーと、妙に覚えています。

――私も震災当時は東京にいて仕事に向かう途中だったので、パニックになった記憶があります。同作で語られている経験談も共感する場面が多かったですが、描き切れなかったエピソードなどあればぜひ教えてください。

覚えてる事を全部描こう！と思って描いたので、全て出し切ってしまった感がありますが…。当時引っ越しを控えていて、既に契約は終えており、震災のゴタゴタを経て3月下旬に引っ越しをしたのですが、新居の郵便受けに「3/11 16時」の日付で投函された郵便の不在票を発見しました。

そんな大変な時に届けなくていいのに！でもありがとう！そして今まで気づかなくてごめん！ってなりました。

――個人的に「地震後でも開けている居酒屋があった」「スリがいる」「人力車は営業していた」という様々なドラマが“人間”というものを悟っているようで興味深く読ませていただきました。東日本大震災を体験して、ナリムラさんなりに思うことがあれば、こちらもお教えください。

この漫画を読んだ方から、当時の体験談をたくさんいただきました。その中には「同じように帰れないから居酒屋を利用した人」「お店で働いていた側の人」などもいらっしゃり、あの日にいろいろな側面の人間ドラマがあったんだなと感じました。

東日本大震災自体はとても悲しい出来事で、だからこそ当時のことを話したくない人も大勢いると思います。

私のような些細な体験でも、こうやって語ることができる人が身近な人に少しでも伝えていくことで、防災を身近に意識してもらえるようにしていきたいです。

――今後の展望や目標をお教えください。

前述の通り、現在は連載漫画「ぷらっと江戸吉原 タイムトラベル案内帖」で、当時のことを調べ現代にわかりやすく漫画として表現、解説をしております。

同じように、現代の様子をWeb・書籍などさまざまな媒体でレポートとして残していき、そして遠い未来で令和の参考資料として活用してほしいです。

特に食べ物・ご当地グルメなどが好きなので、写真だけでは伝わらない食レポを漫画として描き溜めていきたいです！

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします！

この漫画は昨年の3月に描いたものですが、今こうして大勢の方に読んでもらえて、また、当時の記憶を思い出してもらえるきっかけとなったことに心より感謝しております。

今後も伝えたいことや体験したことを漫画にしていきたいと思うので、よろしくお願いします。