『今夜はコの字で』『終幕のロンド』など 俳優・中村ゆりさんが作品に刻んだ"存在感"
9月14日、俳優・中村ゆりさんが直腸がんのため亡くなっていたことが報じられた。突然の訃報に大きな衝撃と悲しみが広がる中、これまで様々な作品で演技を披露してきた彼女の存在を、改めて振り返る声も多く聞かれる。今回は中村さんの出演作を通して、その軌跡をたどっていきたい。
中村さんは1998年、アイドルデュオ「YURIMARI」として歌手デビュー。その後、俳優へと転身し、自身の飛躍のきっかけとなった『パッチギ! LOVE&PEACE』など、映画やドラマで着実にキャリアを築いてきた。特に2025年は話題作に数多く出演し、これらの作品を通じて彼女の存在を知ったという人も多いのではないだろうか。
例えば2025年最初の出演作となったのが、ドラマ『119 エマージェンシーコール』(フジテレビ系)。本作は消防局の通信指令センターを舞台にした物語で、主演の清野菜名が新人指令管制員・粕原雪を務める中、中村さんは司令課3係係長・高千穂一葉(たかちほ・かずは)を演じていた。
雪の上司にあたる一葉は、前線に立って活躍するタイプのキャラクターではない。それでも個性的な部下たちを見守りながら、その成長をそっと後押しする彼女の存在は物語に欠かせないものだった。"高千穂一葉"というキャラクターそのものの魅力に加え、中村さんが持つ柔らかな雰囲気や人を包み込むような温かさ、凜々しい姿とのギャップも、視聴者の印象に残った理由のひとつだったのかもしれない。
一方で同年10月になると、さらに活躍の幅を広げ、ドラマ『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(フジテレビ系)やNetflixシリーズ『匿名の恋人たち』に出演。いずれも注目を集めた作品で、特に『終幕のロンド』ではヒロインの御厨真琴(みくりや・まこと)役という大役を務めた。
『終幕のロンド』は、草彅剛演じる遺品整理人・鳥飼樹を主人公とする物語。真琴の母親が主人公の勤める遺品整理会社に生前整理を依頼したことをきっかけに、ふたりの人生が交錯していく。
報道によれば、中村さんは13年前にもがんを患い、寛解するも、2025年1月にがんが再発。術後も転移が発見されたという。つまり同年12月のクランクアップまでずっと病と向き合いながら撮影に臨んでいたことになる。それでも画面に映る真琴は、そんな事情を微塵も感じさせない穏やかな笑顔を見せていた。
それはカメラが回っていないところでも例外ではなく、番組の公式SNSで発表された追悼コメントには「飾らないお人柄で、いつも笑顔で冗談を言いながら撮影現場を明るく元気にしてくださいました」とある。柔らかな佇まいの奥にある芯の強さ、そして人を和ませる笑顔……。『終幕のロンド』の真琴は、中村さん自身の魅力がそのまま投影されているかのようだった。中村さんの代表作といえば、俳優・浅香航大とともにW主演を務めたドラマ『今夜はコの字で』(BSテレ東)も欠かせない。本作はコの字型のカウンターがある酒場(コの字酒場)を舞台に、男女の交流や大衆酒場の魅力を描いたグルメドラマ。ふたりにとっては民放の連続ドラマ初主演作となり、コの字酒場をこよなく愛するフードコーディネーター・田中恵子を中村さん、彼女の影響でコの字酒場にハマっていく後輩・吉岡としのりを浅香が演じた。
吉岡は密かに先輩である恵子に好意を抱いているのだが、なるほど納得。中村さん演じる恵子先輩は、その日初めて会ったお客さんともすぐに打ち解ける気さくな性格で、仕事の悩みにも耳を傾けてくれる姉御肌でもある。何より酒場で美味しそうに飲み食いする姿が印象的であり、ひと言でいえば一緒にいるだけで楽しい女性なのだ。
そんな彼女に惹かれる気持ちも納得できるし、これほど魅力的な恵子を演じられたのも、中村さんの持つ親しみやすさがあってこそだろう。2022年にはシーズン2も放送されただけに、もうシーズン3で恵子先輩に会えないことが惜しまれる。
一方で、これまでの役柄と異なる存在感を発揮していたのが、2015年公開の映画『ディアーディアー』だ。幼い頃に"幻のシカ"を目撃したせいで人生を狂わされた3兄妹を描いたヒューマンコメディで、黒沢清、瀬々敬久、石井裕也ら名匠のもとでキャリアを積んだ菊地健雄の監督デビュー作となる。
中村さんが演じたのは、駆け落ちの果てに酒浸りの生活を送る末娘の顕子。ここまで紹介してきた高千穂係長も真琴も恵子先輩も、どちらかといえば"清楚な役柄"だった。しかし顕子は少年のようなショートヘアで、どこかやさぐれた雰囲気を漂わせるキャラクターだ。それでいて妖艶さも感じさせるのだから、中村さんの役柄の振れ幅には驚かされる。
もちろん今回紹介したのは、ほんの一例にすぎない。ときに清楚に、ときにユーモラスに、ときに妖艶に――。作品ごとに異なる存在感を放ってきた中村さん。その確かな演技と飾らない人柄は、これからも出演作を通して多くの人の心に残り続けることだろう。
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