『田鎖ブラザーズ』はなぜ"犯人が読める”のに惹き込まれるのか 視聴者を揺さぶる"別の緊張感"
"犯人"が読めたら、作品はつまらなくなるのだろうか――。『田鎖ブラザーズ』(TBS系)は、そんな問いを投げかけるドラマだったように思う。初回からある程度犯人候補を絞り込める構図となっていたが、それでも作品への関心が薄れることはなかった。むしろ視聴者を惹きつけていたのは、犯人当てとは"別の魅力"だったようにも見える。最終回を前に、その理由を改めて振り返りたい。
※本稿では、『田鎖ブラザーズ』『流星の絆』の内容に触れています。ネタバレにご注意ください。
本作は、刑事の兄・田鎖真(岡田将生)と検視官の弟・田鎖稔(染谷将太)が、31年前に起きた両親殺害事件の真相を追うクライムサスペンス。日々さまざまな凶悪事件が描かれる一方で、物語の軸は常にこの過去の事件に置かれている。
彼らの両親が殺害されたのは、1995年4月26日の午後10時過ぎ。犯人は刃物で両親を殺害し、弟の稔と、田鎖家の前を通りかかった足利晴子という少女を切りつけ、その場から逃走している。事件当日、兄の真は父親を訪ねてきた怪しい人物・津田雄二(飯尾和樹)を目撃していたが、彼を逮捕できないまま事件は時効を迎えた。そしてその直後、時効制度そのものが廃止されることになる。
ここまでのあらすじを聞いて、2008年に放送されたドラマ『流星の絆』(TBS系)を思い出した人は多いだろう。本作もまた両親殺しの犯人を追い求める兄妹の物語で、実際にネット上でも「似てる」と指摘する声は少なくなかった。だからこそ『流星の絆』を知っている視聴者ほど、犯人は"主人公たちの身近な人物"なのではないかと感じたはずだ。
『流星の絆』では、兄妹がかねてより犯人だと考えていた人物が、終盤でその線から外れることになる。そしてこれまで主人公たちを支えてきた"身近な人物"が真犯人だったことが明かされ、大きなどんでん返しが描かれた。
この文脈をたどると、『田鎖ブラザーズ』における犯人候補はある程度絞られていく。まず犯人と目されていた津田がその線から外れ、代わりに町中華の店主"もっちゃん"こと「茂木幸輝(山中崇)」と「足利晴子(井川遥)」の2人が犯人候補として浮かび上がる。
茂木は田鎖兄弟にとって、唯一本音をこぼせる兄のような存在。晴子もまた事件以来、兄弟と親交を持ち、"情報屋"としてたびたび力を貸してきた人物だ。過去作のパターンを踏まえた読み方ではあるが、実際、初回の時点でその輪郭に気づいた視聴者も多かったのではないだろうか。
そして迎えた第8話では、茂木が事件に関わっていた事実が明らかにされた。晴子についてもまだ何か"裏"がありそうな気配を残しており、彼女を"真犯人"と見る声も数多く上がっている。このようにある程度犯人が読めてしまう構図は、展開としての意外性という点では弱いかもしれない。しかし、むしろこの構図だからこそ、物語には“別の緊張感”が生まれていたように思える。事件の真犯人をめぐり、放送当初から視聴者の間では「『流星の絆』みたいに身近な人が犯人だったとかやめてね?」「もっちゃん犯人ルートだけはやめてくれ」「田鎖兄弟が不憫すぎるので晴子は味方のままであってほしい」といった声が広がっていた。
さらに物語が進むにつれ、田鎖兄弟との絆や、茂木や晴子がどれほど兄弟を支えてきた存在なのかが繰り返し描かれると、こうした声はますます強まっていく。そして主人公たちにとって残酷な事実が明かされた第8話放送後には、悲鳴にも似た反響が相次いだ。
犯人が読める構図だからこそ、視聴者は「その予想が外れてほしい」と願いながら物語を見守ることになる。そこには犯人当て以上の"緊張感"があったのではないだろうか。
つまり本作の面白さは、真犯人の正体を推理することだけにあったわけではない。兄弟が信じてきた人物との関係が壊れてしまうかもしれない――。その最悪な事態が訪れるまで、視聴者の感情を揺さぶり続けた点こそ『田鎖ブラザーズ』の魅力だったように思える。
6月19日(金)にはいよいよ最終回を迎えるが、予告動画を見る限り、主人公たちはさらに過酷な真実と向き合うことになりそうだ。ここで視聴者の意表を突く新たなどんでん返しが待っていても面白いが、これまで積み上げてきた不安を裏切ることなく、視聴者が思い描く"最悪の真実"を描き切るのもまた一つの答えだろう。むしろ後者を心のどこかで期待している時点で、本作の魅力に取り憑かれている証拠なのかもしれない。
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