米津玄師「夜鷹」ロングインタビュー(提供画像)

【米津玄師「夜鷹」ロングインタビュー】泥臭い原体験と「キングダム」主人公に重ねた反骨心「なんじゃ、やっちゃらあ、今に見とけ!」

2026.07.17 17:00

シンガーソングライターの米津玄師(35)が7月17日公開『キングダム 魂の決戦』主題歌に新曲「夜鷹」(読み:よだか)を書き下ろした。中華統一という途方もない夢を描く「キングダム」。この巨大な物語に、米津はいかにして自らの魂を共鳴させたのか。その源流には、彼がかつて身を投じていた「泥臭く、カオスな」初期インターネット空間での原体験があった。

荒野を生き抜く主人公の姿に自身のルーツを重ねて生まれた「夜鷹」。モデルプレスインタビューでは、名曲を生み出そうとする創作への執念から、夢を叶えるための秘訣を赤裸々に語ってくれた。迷いながらも「おもろい方へ」と歩み続ける彼の、嘘偽りのない言葉の記録。

米津玄師:ネット黎明期の原体験。信の姿に重ねた反骨心


― 今回「キングダム」という非常に泥臭く、かつスケールの大きな作品の主題歌を担当されることになりました。これまでも様々な物語と音楽を共鳴させてきましたが、中華統一という途方もない夢の物語をどのように咀嚼し、ご自身の内側に落とし込んでいきましたか。

【米津】自分のこれまでを振り返ってみると、わりかし泥臭いところ出身というか、そういう側面もあるなという気がするんですよね。自分が音楽を聴き始めるきっかけは25年前、当時自分が10歳だった頃のインターネットでした。そこは今ほどいろんなエンタメが転がっているわけじゃなくて、比較的小規模な場所だったけれども、徳島県という、わりと田舎で育った当時の自分からすると「ここにはなんでもある」という全能感みたいなものがあって、そこでカルチャーショックを受けるわけです。

 そこには自分が求めるものがなんでもあると思ったし、ここと繋がっていればものすごい遠いところまでいけるんじゃないかという意識があった。そこからどっぷりはまり込むんですけど、じゃあやってることはなんなのかというと、非常に治安の悪いようなもので、こんなこと言うのもあれですが、権利などもない、勝手に誰かの曲に対してアニメーションを作ったり、おもちゃ化するように無邪気に楽しんだりしている人もいれば、どこかで露悪的なことをやっている人たちもいる。そういったものが転がっていて、でもそれが子どもながらに楽しかったんですよね。子どもの頃の自分にとって、重要な涵養(かんよう)の1つだった。

 中学生くらいからインターネットに曲を投稿して、その後ニコニコ動画に移っていくわけですけど、ニコニコもまさに、どこの誰が作ったとも分からないようなぺらっぺらな音で、音楽的強度という意味で言えば全く無いようなものがいっぱい転がっていて。でもそれがすごく好きだったんですよ。「こんなことやっている人たちがいっぱいいるんだ」という事実に感動したし、いろんな人間がいる。自分と似たような奴もいれば、全然違う、どうも受け入れ難いと思うような人たちがいて、荒れた公立校みたいな雰囲気があって(笑)。でもやっぱり、そこからやってきたというのは抗えない事実なんですよね。

 そこから楽しく、時にむかついたりしながら音楽を続けていって、自分で歌うようになって、一歩離れてみると「あ、(ニコニコ動画は)えらい嫌われてもいたんだな」という。音楽業界の人が「あんな場所に自社のミュージシャンの音源をあげたりしない」と言っているのを聞いたりもしたんですけど、そこから出てきたので「なんじゃ、やっちゃらあ、今に見とけ!」みたいな、ある意味で泥臭い気持ちみたいなものが自分の中にはあって(笑)。それは信(キングダムの主人公)の姿を見ていて共感できる大きなポイントの1つだったし、そういうところを軸に広げていった結果、こういう曲ができました。

― 今回の楽曲制作において苦しんだことはありましたか。

【米津】毎度やっぱり苦しむし、それぞれにしんどいところはあるけれども、比較的楽しくやれたなという感じがあります。久しぶりにロックテイストの曲を作ろうみたいな思惑からスタートして。ロックは自分の原体験でもあるので、半分趣味みたいな感じで自分のテリトリーの中でやれるというのは楽しかったし、反面「安心しすぎてもな」みたいに思ってその塩梅をとりにいったり。

 あと個人的に最近のブームとして「声をがならせる」というものがあるんですけど、「キングダム」はそういうムードとも合致する性質があるので、好きにやらせてもらえるなという感じがあって楽しかったですね。

― 本作の映像を観て創作意欲を刺激された部分はありましたか。

【米津】すごく明確に「こうだ」と言えるものがあるかと言われるとそこまでないのですが、万極(今作では信vs万極の戦いが大きな見どころになる)の凄惨な生い立ちや結末のニュアンスみたいなものは影響を及ぼしているような気がします。

― 曲のタイトル「夜鷹」の意味や込められた想いを教えてください。

【米津】宮沢賢治に「よだかの星」という短い物語があって、もう本当にそこからだなという感じです。自分はやっぱり宮沢賢治を敬愛していて、たまに自分でも恥ずかしくなるくらい、いろいろ引用させていただいたりしているのだけれど、その一環というか。直接的にあの物語から何か着想を得たということではないものの、この曲を作っているうちに「僕らは夜鷹」という語感だったり、意味合いだったりというところがあまりにもうまく嵌まってしまったものだから、そこから逃げ出せなくなりました。

 自分の曲に「Nighthawks」という曲があって、直訳すると「夜鷹」なんですね。「同じタイトルの曲が2曲あってもいいんだろうか、それはさすがに良くないんじゃないか」と思いもしたけれど、結局うまく嵌まりすぎたおかげで「もうこれ無理だな」と。実は「1ミュージシャンに同じタイトルの曲があってもいい」という思い込みの1点だけで突破したという感じがありますね。

― 映画館の暗闇の中で、壮絶な戦いの余韻とともにこの「夜鷹」のエンドロールが流れてくる瞬間は、観客にとって特別な体験になると思います。米津さんご自身は、観客にどのような気持ちで映画館を後にしてほしいと想像しながら曲を仕上げていきましたか。

【米津】改めてそう聞かれて思うのは、そこまで想定していないかもなと。少なくとも自分の対面にあるのは「キングダム」という映画であり、漫画であり、それと「自分」という直通のマンツーマンの関係性しか考えていないところがあります。もちろんポップスとして人に聴いてもらうために意識していることは多少なりともありますけど、何かを受け取ってほしいという確固たる気持ちが自分の中にあるかと言われると、そんなにないんじゃないかなと思います。

 自分は良い曲を作りたいだけであって、それが奇跡的に「キングダム」と自分との間で、ものすごく良い塩梅でポケットに入るようなところに落とし込める曲が出来上がること。ただそれだけを求めてるような気がします。なので、本当に無責任な言い方になりますけど、曲が出来上がったあとはもう「ご自由にどうぞ」と。それが良いやら悪いやら言われたところで「知ったこっちゃない」という気持ちはありますね。もちろんとんでもない勢いで言われたりしたら、俺は怯むと思うんですけど(笑)。好評だったらそれは嬉しいっていうのはもちろんあるけれども、作っているときにはあまり考えていないかもしれないです。

米津玄師:過去の記憶の再編集。癒やしを生む静かな時間

― 「キングダム」の登場人物たちは途方もない夢に向かって日々戦っていますが、米津さんが最近、ご自身の日常の中で「ひそかに戦っていること」や「ちょっとした葛藤」はありますか。

【米津】もう本当に「曲を作ること」ばっかりですね。1つでも良い曲を作ろうという、今の自分には本当にそれしかないです。今、佳境というか、だいぶ試行錯誤している段階なので、特にそういう風に思っているのかもしれないです。

― 曲作りでどうしても行き詰まる瞬間はあるかと思いますが、そういったときも音楽の中に逃げ道がありますか。それとも全く違うことでリフレッシュしていますか。

【米津】日記を書きます。文章を書くというか。それが今の自分にとって唯一の現実逃避という形になるんですよね。すごい落ち着きます。過去の自分の記憶などを言葉に編集し直して文字として表す。何度も何度もやってることではあるんですよね。小学生のときに起きた出来事など、同じ内容を何回も何回も言語化して繰り返すんですけど、やるたびにちょっとずつニュアンスや角度が違ったりする。そういうのをただただ眺めているのが自分にとって癒しで。それで生活が回っている感じがします。

米津玄師:夢を叶える秘訣。残酷な現実でも「やるしかない」


― モデルプレス読者の中には、現在進行形で夢を追いかけている読者がたくさんいます。そういった方々に向けて、米津さんがこれまでの人生を振り返り、夢を叶えるために必要だと思うことを教えてください。

【米津】まず大前提として、自分はとてつもなく運が良かったなと思います。もちろんものすごく頑張ってきたということは言えると思うんですけど、一方で小学生のときにインターネットが家にやってきたり、それによってボーカロイドと出会ったり。それにスタッフなど、身の回りにいるあらゆる人たちと出会って、支えを得て今の自分がある。これはあまりにも自分でコントロールできない要素であって、努力云々でどうすることもできない運の良さみたいなものがあったというのは大前提であります。

 やっぱり「夢を叶える」というのは非常に難しいというか、ある意味で残酷なことだなとも思う。音楽ってどうしても適性というか、才能という言葉はあまり使いたくないんですけど、向いているか向いていないかみたいなところが露骨に出る分野ではあるので。こんな現実的な話って思うんですけど、子どものうちからピアノを弾いているとか、あるいはギターを習っているとか、家に豊かな文化資本があってとか。すごくそういうものがものを言う世界で。

 それで言うと、自分はそれがあまり無かったから。「今更どうしようもねえな」と思ったりもするんですけど。とはいえ「やるしかない」。「でもやるんだよ」って。結局そうなんですよね。どれだけ「俺マジ運がねえわ、なんか全然ダメだわ」みたいに落ち込んでいても、誰も助けてくれるわけがないし、その場でとどまっていたら、永遠にそこにいることになる。

 「やるんだったらやるしかない」っていう、トートロジー的な言い方ですけど、もう「やるならやる」、それに尽きる。そして「それを諦めずに続けろ」という、非常にスポ根的な言い方になるしかない。でも結局、諦めなければなんとかなるようなところはありますよね。なのでもう「生きてさえいれば」みたいな、そういうところになるんじゃないですかね、最終的には。

― 「やるしかない」、「諦めずに続ける」。

【米津】めちゃめちゃシンプルな秘訣ですけど、誰も自分の判断に責任なんて取ってくれない。責任を取れるのは自分だけであって。「誰も助けてくれなかったじゃないか」と言ったところで、それは確かにそうで。もしかしたら被害者かもしれないけど、じゃあだからといって「誰が助けてくれる?」と。そこにとどまっている限り、永遠にそれは現れない。

 能動的に何かやってさえいれば、どこかで手を差し伸べるような何かが目の前に現れるかもしれない。それは誰しも訪れうる幸運だと思います。そういうものをいかに「がっと掴めるか」とか、いかにその人に誠実でいられるかとか。そういうことを1つひとつ、つぶさに精査していって、自分がどういう状況にいるのかというのを解体して考えまくって「なんでもいいからやってみる」っていうことに尽きるような気がしますね。

― 夢を追う中で大なり小なり「挫折」というのは誰しもあると思います。心が折れそうになった読者に、もし米津さんなりのメッセージがあればお願いします。

【米津】心が折れそうになることでしか見えないものってあると思うんです。それがポジティブに働くか、ネガティブに働くかというのはそれぞれだと思うし、確かにネガティブな方が多いと思う。でも「夜鷹」にかこつけて話すのであれば「亀裂の奥から光が射し込む」。亀裂が走らないことには、その向こうにある光はこっちに届かないので。壊れたり亀裂が走ったり、そういうネガティブな要素でしか求められない光みたいなものがあるはずです。そういう風に思ってさえいれば、まだマシじゃない?くらいの感じですかね。

米津玄師:夢は手放してきた。「よりおもろい方へ」の現在地


― 米津さんにとって「夢」や「目標」はどのようなもので、どのように向き合ってきたものでしょうか。

【米津】夢とか目標を結構手放してきました。原初を辿れば漫画家になりたかった。その次は音楽家ではあるものの、バンドマンだった。でもどっちも手放してきたわけですよね。で、結果なったのが、音楽が好きになってバンドがやりたいと思っていた頃には存在すらしなかったボカロP。その後、ネット発のシンガーソングライターと呼ばれるようになった。でも自分としてはこの2つに何1つ感慨はないんですよ。本当はやっぱりバンドがやりたかったし。そういう意味で、いまだに1人で楽器も持たずに歌を歌っていることに対する違和感はあります。

 たぶんこれってもうどこにいってもつきまとうわけです。だったら「よりおもろい方に行こうや」と。どこに行ったところでどうせ違和感があるんだし。だったら少しでもおもろい方へ。「自分が今まで培ってきたものを全部使って、どんどん変な方に行ってやろう」みたいな、そういう気持ちが強い。子どもの頃の自分が今の自分を見たらビビり散らすと思います(笑)。「『IRIS OUT』!? ん? お前なにしてんねんみたいな。そんなんなりたかったんちゃうよ」ってたぶん言うと思うんです。

 でもおもろい方をどんどん選択していった結果「なんか全然知らん駅着いたな」みたいな、それが今のこのあり様なわけですけど、意外と気に入ってるんです。それこそ当初の目的を失って回遊している、あるいは森に迷い込んだみたいなところはあるけれども、迷い込んでいるうちにここまで来た。それはちゃんと「迷えるだけ迷おう」って思える勇気があったということだなと思うし、それを今の自分が証明しているような気がしていて、それは決して悪いもんじゃないなと思います。

― 米津さんの今の夢、目標、あるいは次のステージがあれば最後に聞かせてください。

【米津】ないですね。本当に今できることを、目の前にあることを精一杯やる。今できることを精一杯やっていると、自分の嫌というほどわかった気質としては、もうウロウロ、ウロウロするわけですよ。まっすぐ進んで行こうとするのに「こっち行った方がいいんじゃないか」「あっち行った方がいいんじゃないか」みたいな。

 そのウロウロが、気がついたらプラスアルファの変な装備になってるというか、それによってまた全然違う方に行ける萌芽みたいなものが、今たぶん蒔かれてる最中なんだろうなって思ったりする。なので夢とか目標を持とうとは思わない。ただ今やるべきことをやる。それがおもろい方へ、おもろい方へ、というのをこれから先も続けていったら、たぶん「なんじゃこりゃ」みたいなところに行くと思うんで、それを楽しみにしてるって感じです。

― 貴重なお話、ありがとうございました。


★「やるしかない」と腹をくくり、当初の目的から逸れても「迷えるだけ迷おう」と語る米津玄師。インタビューが少しくだけたタイミングで「今の日々は楽しいですか?」と聞くと、「いやもう、なんだろうな、忙しい(笑)。忙しいです。でも楽しいです。充実していて」と笑みをこぼした。その言葉には、妥協なく自分と向き合い続ける、表現者としての幸福な現在地が滲んでいるように感じた。ファンや関係者を惹きつけてやまないのは、きっと忙しい中でも純粋に音楽を面白がる生き様があるから。彼が次に届けてくれる「なんじゃこりゃ」を、これからも全力で楽しみにしたい。★


2026年6月15日、2026 NHKサッカーテーマ「烏」をリリース。インタビューでは、「FIFAワールドカップ2026」にて熱戦が繰り広げられる中で流れる同楽曲についても聞いた。インタビュー本編のこぼれ話として下記に掲載する。

【Q.W杯にある「勝敗」という概念に対し、どのようなスタンスでペンを握ったのか】

ワールドカップは国際大会で、そこに「勝敗」という属性がついて回っちゃうと少しきな臭いなと思うところがありました。国の外ではいろんな凄惨なことが巻き起こっている現状で「打ち勝つ」とか、そういうことを無批判に曲に乗せるということがどうしてもできなかったという部分はあって。とはいえサッカーはスポーツであって、スポーツはエンタメである。そこを同一視するのはどうなのかと思いつつも、やっぱりスポーツってそもそも誰かが勝って誰かが負けてということが構造的至上命題で、宿命づいていて。

 「勝ってこそ価値があるんだ」と言われたら本当にその通りだと思いますし、そこはもう抗いようのない運命みたいなものだと思いますが、でも結局それはサッカーというスポーツの構造の話でしかなくて、そこでスポーツに興じている選手、監督、個人との間にはいくぶんか距離があるはず。だとすればそういう構造を、自分たち1人ひとりの意思によっていくらでも解体することができる。もちろん勝つことが至上命題ではあるけれども、そことは距離を取った、自分なりの目的だとか、美しさみたいなものを構造の中に込めることができる。それによって、何かあいだにちょっと風が吹くような曲が、その方向性の先で出来上がればいいなと思いました。

 サッカーのテーマソング、ワールドカップのテーマソングといえばアップテンポでロックっぽい音の印象がありますけど、自分はそれはやりたくなかった。どこまでいっても「個人」に焦点を当てるということが自分にとって1番自然な形だったし、自分がやるのであれば、そういうやり方をするのが1番似つかわしいという気がして。「今の自分がここにやれること」というのをそのまま出力していきました。

(modelpress編集部)[PR]提供元:ソニー・ミュージックレーベルズ

Photo by Yohji Uchida

米津玄師(よねづ・けんし)プロフィール

音楽家 イラストレーター

ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年本名の米津玄師としての活動を開始。以降、ヒット曲を連発。ドラマ「アンナチュラル」主題歌「Lemon」はBillboard年間ランキングで2年連続首位を獲得し、300万枚セールスを突破。2020年に発売したアルバム「STRAY SHEEP」は200万枚セールスという記録を樹立した。『チェンソーマン レゼ篇』主題歌「IRIS OUT」は、国内ストリーミングで史上最高の週間再生数、史上最速での1億回再生という記録を樹立したほか、グローバルチャートでも日本語楽曲の歴代最高位を記録するなど、国内外において音楽史に残る記録を残し続けている。現在、公式YouTubeチャンネル登録者数は868万人を突破。2026年11月から12月にかけて「米津玄師 2026 TOUR / GHOST」を開催予定。

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