日曜劇場「アンチヒーロー」攻めの演出に込めた思い「世の中に蔓延っている毒の部分をしっかりと描かないことには伝わらない」<飯田和孝Pインタビュー>
2024.04.12 17:00
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俳優の長谷川博己が主演を務めるTBS系日曜劇場『アンチヒーロー』(毎週日曜よる9時~)が、いよいよ14日にスタートする。第1話の放送に先駆け、同作のプロデューサーを務める飯田和孝プロデューサーが、モデルプレスらのインタビューに応じ、作品に懸ける思いやキャスト陣の起用理由を語ってくれた。
長谷川博己主演「アンチヒーロー」
「正義の反対は、本当に悪なのだろうか…?」を視聴者に問いかけ、スピーディーな展開で常識が次々と覆されていく本作。日常のほんの小さなことがきっかけで正義と悪が入れ替わり、善人が悪人になってしまう。まさにバタフライエフェクトのような、逆転パラドックスエンターテインメントとなっている。長谷川、北村匠海、堀田真由は同じ弁護士事務所で働く弁護士を演じる。
「アンチヒーロー」は「予想よりもひどく、よりダークなところに」
― 完成した1話を観ての感想を教えてください。飯田:やりたかったことはやれたと思っていますが、どういう反応をいただくかも分からないですし、少しびびっています…(笑)。主人公のキャラクターが、アンチな弁護士でダークヒーローというところで、どこまで踏み込んでいくかというところはこのドラマを観たいと思ってくれている人が注目しているポイントだと思うのですが、多分予想よりもひどく、よりダークなところに行っている気がしています。違法すれすれのやり方といったところを想像している方が多いと思いますが、それよりも人間の内部を扱おうと思っていたので、人の弱みにつけ込む部分をどう受け入れていただけるかというのは怖くもあり、興味もあります。
「アンチヒーロー」企画のきっかけは父の死
― 「アンチヒーロー」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。飯田:まずは「VIVANT」のときと変わらず、とにかく次から次へと観たくなるような、引き込まれるエンターテインメントのドラマを作ることを念頭にやっていました。これを最初に企画したのは2020年のコロナ禍が始まったぐらいだったんです。福田哲平さんと一緒に企画を始めて、最終的には4人の脚本家で合作をしました。時代が経つにつれていろいろなことが起きて、昨今は傷つけるのも簡単ですし、得ていた評価やある程度の賞賛が一瞬にして崩れ落ちることはすごくあることだと思っていて、ただその中で「本当にそうなんだろうか」「本当に真実を見られているんだろうか」と常々思っています。自分の目、耳、肌で、しっかり物事を感じていかないと、それが引き金になって誰かを不幸にしてしまったり、それが自分に返ってきたりする世の中になってきていると思っているので、しっかりと自分の感覚を大事にすることが必要なんじゃないかということを少しでも感じていただけると嬉しいです。
― 2020年に企画をしたことには何か理由があるのでしょうか?
飯田:2018年の火曜ドラマ「義母と娘のブルース」最終回のすぐ後くらいに父親が亡くなりました。病院の集中治療室に入っていたので、夜は病院に泊まり、何事もなければ朝、車で45分の実家に帰り、実家から東京に通っていました。病院で夜を越えて実家に帰ったある朝、病院から「すぐ来てください」と電話がかかってきて、車で向かう途中にスピード違反で捕まったんです。確か農道の40キロ道路で、「もしかしたら死に際に立ち会えないかもしれない」、「これが最後かもしれない」「会いたい」という思いが先立って、スピード超過は絶対にいけないとわかっていつつも、オーバーしてしまって。そのときに振り払ってでも行きたいと思ったんですが、“世の中のルール”上、スピード超過は悪。でも、例えば、父の死に目に会えないかもしれないときに人はどうするんだろうとずっと考えていました。もし、そんな状況で警察を振り切って父に会いにいく主人公だとしたら、視聴者はその主人公を悪と呼ぶのだろうか、ヒーローと呼ぶのだろうか、と。
それと、都内で高速のインターに入るとき、白バイに捕まっていた車がいたんです。左折する時に違反があったようなんですが、取り締まるんだとしたらもっと見えるところにいたほうが良いのでは、見えるところにいれば事故防止にもつながるし。それは本当の善なのだろうかとずっとモヤモヤしていて、そんな中でコロナ禍での“マスク警察”など、病気になった人が、感染したことで責められるような騒ぎが続いて、人の善が度を過ぎていると感じるようになりました。そこから悪を行う主人公でも、何かを変えるきっかけになる悪だったら称賛されるのではないか、善ではないのかと思い、この世で一番悪だと思っている殺人を許す、救う主人公を描けたら何かを伝えられるのではないかと考えたことがきっかけです。
「アンチヒーロー」長谷川博己・北村匠海・堀田真由の起用理由
― 長谷川さん、北村さん、堀田さんの起用理由を教えてください。飯田:最初の企画書から長谷川さんをイメージキャストとして挙げていました。この主人公は掴みどころのない人間で、何を考えているか分からないけれど、胸の中に真のようなものを持っているのかもしれない。簡単に正体が分からないところを一番重視していたので、そこを一番体現してくれる方として長谷川さんが真っ先に浮かびました。2017年のドラマ「小さな巨人」での長谷川さんに対して、すごく芯が強いけど繊細でもろくて、強さの反面いろいろな面を持ち合わせている方という印象を持ったんです。そのドラマだけでは全部を掴みきれず、もう一回お仕事をしたいという気持ちと明墨というキャラクターが日本の俳優さんの中で一番合っているというのが理由です。
北村さん演じる弁護士のキャラクターはすごく難しいと思っています。弁護士としてド新人ではないですが、ある種視聴者目線的なキャラクターになっていく中で、そこをどう表現していくのかと考えたときに北村さんの表現力に注目しました。すごく頭の良い俳優さんですが、頭で芝居をしていない。1話から10話までの台本の中では北村さんのキャラクターがどうなっていくのか計算があるんですが、北村さんが演じるとそれが計算っぽく見えなくて、自然な佇まいになるんです。すごく難しい表現になると思ったので、北村さんにお願いしたいとキャスティングしました。
堀田さんはすごく柔らかくて可愛らしいという印象がある女優さんというイメージだったので、クールな役をやらせてみたいと思いました。このキャラクターもいろいろなことが明かされていきますが、しっかりと向き合っていけるお芝居をされるんじゃないかなという想像があったので起用しました。
「アンチヒーロー」今の時代に伝えたいこと「世の中に蔓延っている毒の部分をしっかりと描かないことには伝わらない」
― SNSでも考察などいろいろと盛り上がりそうだと感じました。「VIVANT」から「不適切にもほどがある!」など考察系が続く狙いはあるのでしょうか?飯田:殺人犯を無罪にすることはただごとではないので、そこには理由が欲しいと思っていました。もちろんエンターテインメント作品としてではありますが、ストーリーを組み立てていくとそれぞれいろいろな側面を持っているキャラクターが生まれたので、考察や伏線っぽいシーンがいっぱいある題材になったと思っています。「アンチヒーロー」は去年の2月から脚本を書いていて、「VIVANT」で考察ブームになる前にできていたので「VIVANT」が好評だったからというよりは、観てくれる方に対してしっかりとしたストーリーを届けたいという気持ちです。
― かなりセンシティブな内容もありましたね。
飯田:そんなにやばいですかね(笑)?メイキングのインタビューなどでも俳優さんたちが「すごく攻めている」とおっしゃっていたのですが、自分の中では少し日和ってしまったかなと思っていました。今の時代に伝えるべきことを伝えるためには、世の中に蔓延っている毒の部分をしっかりと描かないことには伝わらない。中途半端さは命取りになると思っていています。しっかり伝わらずに何万倍にして跳ね返ってきて、我々制作陣やキャストが傷ついてしまうことは絶対に避けたかったので、社内でもしっかりと意見をもらいながら進めました。
「アンチヒーロー」ストーリー展開に言及
― “犯罪をした人は罪を償っても更正できない”という考えが強く伝わりました。飯田:みなさん口には出さないですが、謝ったら許してもらえる、悪い印象がついたとしても法律上釈放されたら許してもらえるわけではないのが世の中だと思っています。例えば会社でパワハラをした人がいれば、ずっとそういった目で見られてしまいますし、悪いことをした子供に教えるときには「謝りなさい」と言いますが、それも簡単なことではないと思うんです。世の中で目をつぶっているところがあると思うので、そこをしっかりと伝えていきたい。テレビで大衆に向けて発信するうえでは、過ちを犯したら謝って更正して償うことが最善の策で、そうしたら見ている人は見ていてくれると伝えますが、見ていてくれる人がいてもその人がまず潰される世の中だと思うんです。目を背けてはいけない矛盾している空気感があって、だからこそ主人公は殺人というレッテルを貼らせないために動いている。殺人犯と認められてしまったら、今の世の中では絶対に立ち直れない。そこがメッセージだと思っています。このドラマで言いたいことが何かというのは10話を通して感じてもらいたいので、あえてトップシーンは強いセリフから入っています。全部観てもらえると「言いたいことはこれだったんだね」と分かると思います。
― 最後に放送を楽しみにしている視聴者へメッセージをお願いします。
飯田:まずは1話観てほしいという思いもありますが、とにかく2話まで観てください(笑)。何かを伝えたい、感じてほしいというよりは楽しんでほしいです。僕らはいかに視聴者の方にドキドキ、ワクワクハラハラしてもらえる主人公にできるかというのを全身全霊、全力でやっているので、あまり難しく考えずに長谷川さん演じる主人公を観に来て、2次的要素で何か感じることがあれば嬉しいです。
― 貴重なお話ありがとうございました。
(modelpress編集部)
「アンチヒーロー」第1話あらすじ
「殺人犯へ、あなたを無罪にして差し上げます。」正しいことが正義かー
間違ったことが悪かー
【Not Sponsored 記事】