大河「光る君へ」脚本・大石静から見た吉高由里子&柄本佑の魅力 「平安時代の認識を改めたい」今作で伝えたい想いとは<インタビュー前編>
2024.01.01 05:00
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女優の吉高由里子が主演を務めるNHK大河ドラマ「光る君へ」(総合テレビ、毎週日曜午後8時~/BS・BSP4K、毎週日曜午後6時~/BSP4K、毎週日曜午後0時15分~)が2024年1月7日から放送を開始する。このほど、脚本を手掛ける大石静が合同取材に応じた。2020年の日本テレビ系ドラマ「知らなくていいコト」に続きタッグを組む吉高と柄本佑の、大石から見た魅力とは?大河ドラマの歴史において2番目に古い時代を扱い、戦がない時代を描くというチャレンジングな題材になっている今作。多くの時間をかけて作り上げたというキャラクター設定や、作品を通して伝えたいことを語ってくれた。<前編>
吉高由里子主演大河ドラマ「光る君へ」
平安時代を舞台に、壮大で精緻な恋愛長編「源氏物語」を書き上げた紫式部(まひろ)を吉高が演じ、「源氏物語」執筆に欠かせない1人の男性・藤原道長を柄本が演じる。ドラマでは紫式部が生涯心を寄せ、陰に陽に影響しあいながら人生をたどる生涯のソウルメイトとなる。脚本・大石静から見た吉高由里子&柄本佑の魅力とは
― 吉高さんの作品の脚本をこれまでも手掛けられてきましたが、今回何か「このように演じて欲しい」などお言葉をかけられましたか?大石:相談を受ければ言いますけど、演出は監督たちやスタッフの世界ですので、「このように演じて欲しい」とは言いません。他の作品を観ていても思ったんですが、吉高さんは、すごく明るくて弾けた陽な感じだけど、悲しさ・寂しさみたいないわゆる陰も同居していて、彼女自身が持っている陰と陽のバランスが、紫式部の気難しい感じに合っているなと思って、そこは伸び伸びやってくれれば出てくると思います。
― 柄本さんの持ち味はどのように考えていらっしゃいますか?
大石:柄本さんはデビューした頃から名優だと思っていました。いわゆる二の線(二枚目)に分類される人じゃないと思っていましたが、「知らなくていいコト」では本当に素敵だったんです。スタジオですれ違ったら女性スタッフが皆うっとりするくらいで、色々な人を演じられるけど良い男もさりげなくやると思って今回もやって欲しいなと思いました。道長は最初、上昇志向がないですからとぼけた感じでぼっーとしているんですけど、だんだん周りが亡くなりあっという間に頂点に立ってしまうんですね。そういうときの変わり目がこれから出てきますし、まひろに対するシーンではセクシーさがあります。多分私は自分の見え方を計算していると思っていて、「ここで二枚目っぽく見せて、ここでとぼけて」と台本も表現しているけど、それ以上に考えて見せているすごい役者だと思います。
大石静、藤原道長は「優れた政治家」改めたいパブリックイメージとは
― キャラクター性の強い登場人物が多いと思ったのですが、1年間という長丁場を引っ張っていく上でキャラクター設定の工夫は大河ならではのものがありますか?大石:大河ならではということは特にないです。上手くいっているドラマはキャラクター設定が上手くいっているんです。キャラ設定が崩壊しちゃったりはっきりしていなかったりすると物語が転がっていかなくて、「最初のキャラ設定と違うよね」と思ったりするので、キャラ設定に命をかけます。私は短い連ドラだったら1話からいきなり書いていくんですけど、こういった長い作品は「ここで何が起き大体最終回この感じで抜ける」と1年間くらい会議して、「この役の見せ場はここだからここに向かってどうする」というのも計算してから書き出すので、人数が多くとも自ずとキャラは立ってくると思います。
― 初回で道長が「怒るのは好きじゃないんだ」というセリフが印象的だったんですが、道長のキャラ設定はどこが核でどう逆算して考えていきましたか?
大石:道長は「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば」の歌で、大変傲慢で独裁的な政治をやった人という印象で中学高校の教科書にも載っています。歌一首で藤原氏が横暴な政治を行ったと思われているけど時代考証の先生も決してそうではないとおっしゃっていて、当時は非常にレベルの高い政治が行われていて災害には庶民のためにも助け小屋が作られていたり、足りなかったかもしれないけどそういう意識はある政治をやっていたと聞きました。400年に渡って大きな戦がなく話し合いによって物事を解決していくという今の私たちだって考えなきゃいけないことをしていたんです。だから三郎(道長)少年の「俺は怒るのは好きじゃないんだ」と言うセリフは道長の政治の根本で、例えば天皇が急に力を持たないように自分も権力を持って話し合いで天皇の間違いも収められるようにしながらやっていこうとか、バランスを取ることが上手で周りの気持ちもすくい上げながらやってきた優れた政治家として道長を描いていますし、私はこのドラマを通じて平安時代の認識を改めたいと思います。
― 陽明文庫の「御堂関白記」をご覧になったとき、大石さんがすごく感動されていたと聞いたんですが、どんなことを感じられましたか?
大石:道長は字が下手なんですよね。そこが可愛らしいんです(笑)。時の権力者が書いたり消したりこっちを引っ張り出してここに書いたりとか、そういうところも愛おしいなと思いました。私が一番ゾクッとしたのは、道長のお墓参りをした時で、それを前にしたときに「ここに道長がいる」と思って道長に「この作品を書け」と言われているように思いました。
ユースケ・サンタマリア&毎熊克哉のキャラクター設定とは
― 安倍晴明を演じるユースケ・サンタマリアさんのインパクトがすごく強かったんですが、安倍晴明を描くにあたってこだわっていることは?大石:霊能力者は私たちに計り知れないものなので、常に何を考えているかわからない風にしたいなと思って描いています。安倍晴明って色んな作品ですごく綺麗な格好をした描かれ方をしている印象なんですけど、貴族の手下でもあるのでもっと普通っぽい方がリアルだなと思っていて、これから先はもっと違う顔を見せたいので今頭を捻っています。
― 毎熊克哉さん演じる直秀(散楽の一員)がすごく魅力的なキャラクターだと思ったんですが、モデルとなる人物がいるのか、どのようにキャラ設定をされたか教えて下さい。
大石:貴族と言われる人たちは当時1000人ちょっとぐらいしかいなかったらしくて、その当時の日本の人口がどれくらいだったのかよくわからないんですけど、それにしても全国で見たら貴族は0.01パーセントぐらいだと思うんですよね。その1000人だけの世界を描いていては、やっぱりちょっと偏っているなと思って庶民の視点を最初に出しておかなきゃいけないと思って設定したのが散楽です。藤原氏に対する批判の心を持っているものを出してバランスを取りたいなと思って設定しました。
大石静「平安時代の印象を変えたい」作品を通して伝えたいこと
― 平安時代の男女関係も今作の見どころとして打ち出していましたが、どのように描かれますか?大石:8時のドラマなので塗れ場はないです(笑)。ただ、そこはなかとないエロスが漂う雰囲気は出したいと思います。その時代に天皇になった人はとにかく子孫・後継者を残すということが大事なので、性的行動は間近にあるんです。もちろんキスシーンもあるし胸キュンなところもいっぱいあります。
― 大石さんがこの作品で訴えたいテーマとは?
大石:色々な要素があるので一言では言えないですが、先程申し上げたように平安時代の印象を変えたいというのは1つあります。紫式部という文学者は人生を通して非常に権力批判の考え方の強い人で、文学というのは本来そういうものだと私も思うし、そういう奥深い作品を書いたが故に世界的に評価されていると思うんですね。欧米ではユネスコが選ぶ「10人の偉人」に1人だけ日本人として選ばれていたり文学としてちゃんと評価されていて、「源氏物語」はただ男と女が寝たり起きたりしている印象を持っている人が多いと思うんですけど、そうではなくて行間に彼女が込めた人生哲学があるんだということも示したいです。
― 戦がないということで今までの大河ドラマとは違うファン層に向けて作っているのか、それとも従来のファンを意識して作られているのか教えて下さい。
大石:従来の大河ドラマは必ず観るという層にはもちろん見ていただきたいと思っています。それと韓流好き、ラブストーリーの好きな人たちも取り込みたいなという風には思います。ただ、私は面白いものを作れば、子供も大人も誰でも観ると思ってやっています。貴族はとにかく血を見ることが穢れだと思っているから下っ端に都合の悪い人を排除させたりしているんですけど、貴族間でも誰かの足を引っ張ったり、権謀術策で誰かを失脚させたりするというのはいつの時代も同じようにあるので、戦はないけど人間の葛藤や足の引っ張り合いは同じくらいスリリングだと思います。
(modelpress編集部)
※初回放送後に後編を配信予定。
「光る君へ」第1回あらすじ
1000年の時を超える長編小説「源氏物語」を生み出した女流作家・紫式部の波乱の一代記。平安中期、京に生を受けた少女まひろ(落井実結子)、のちの紫式部。父・藤原為時(岸谷五朗)の政治的な立場は低く、母・ちやは(国仲涼子)とともに慎ましい暮らしをしている。ある日まひろは、三郎(木村皐誠)という少年と出会い、互いに素性を隠しながらも打ち解けあう。再び会う約束を交わす二人だったが…激動の運命が始まる。大石静プロフィール
東京生まれ。1986年にテレビドラマの脚本家としてデビューして以来、オリジナル作品を中心に多数のテレビドラマの脚本を執筆。97年に連続テレビ小説「ふたりっ子」(NHK)では第15回向田邦子賞と第5回橋田賞、2011年に「セカンドバージン」(NHK)では東京ドラマアウォード脚本賞、21年にNHK放送文化賞を受賞、さらに同年に旭日小綬章を綬章。これまでの執筆作に連続テレビ小説「オードリー」、大河ドラマ「功名が辻」(NHK)、「家売るオンナ」、「知らなくていいコト」(日本テレビ)、「長男の嫁」、「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS)、「アフリカの夜」、「愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~」(フジテレビ)、「和田家の男たち」、「星降る夜に」(テレビ朝日)など。
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