モデルプレスのインタビューに応じた甲斐翔真 (C)モデルプレス

<甲斐翔真インタビュー>コロナ禍で舞台に立ち、挑戦を続ける―「本当の意味で“生きる”ために、僕たちにはエンタメが必要」

2020.11.13 17:00

東京・シアタークリエで上演中のミュージカル『RENT』(~12月6日)にて、元ロックバンドのメインヴォーカル、ロジャー役を演じる甲斐翔真(かい・しょうま/22)。コロナ禍においてリモートでのやり取りも織り交ぜた新しい形の稽古を乗り越え、年明けからはミュージカル『マリー・アントワネット』(東急シアターオーブ、2021年1月28日~2月21日)にフェルセン伯爵役での出演が控える。ロジャーの役作りでこれまでのイメージを覆す金髪姿となり、その表情に力強さも、繊細な色気も兼ね備えた今。エンターテイメントの中心で挑戦を続けるリアルな胸の内をモデルプレスのインタビューで語った。

  

『RENT』を2020年に届けることができた奇跡

甲斐翔真(C)モデルプレス
― 人生初の金髪はいかがですか?

甲斐:最初は鏡を見て「誰!?」と驚くほどだったんですけど、ようやく慣れてきました。黒髪だったことを忘れてしまうくらい。

― ファンの皆さんからもかっこいいと好評です。

甲斐:やる前は想像つかなかったんですけどね。しかもこんな短髪、高校生ぶりです。今回、ロジャーを演じるにあたって髪型には本当にこだわりました。本当のアメリカ人のような白っぽい金髪を目指したくて、本番5日前くらいにシルバーを入れてから色落ちさせるために頭をかなり洗って。1日に6回とか(笑)。実は長さもゲネプロより初日のほうがさらに短くなっています。初日の支度中に「ちょっと長くないですか?」「切ろうか」となって(笑)。

ミュージカル『RENT』ゲネプロより(C)モデルプレス
― ミリ単位の調整があったんですね!稽古中、演出のアンディさんとはリモートでやり取りされたそうですが、無事に本番を迎えた心境をお聞かせください。

甲斐:稽古はリモートということもあり、ちょっと苦しい時期もありました。ですが、毎日稽古を積んできて、やっぱり本番で得るものは本当に大きくて。お客様の反応はもちろん、本番という空気の中でやるからこそのお芝居の温度感であったり…まだ一週間くらいしか経ってないんですけど、今は初日とはまた全然違う空気感になっていて。少しずつ視野も広がって、人の気持ちの流れにも着目し、動きや芝居の矢印を超越した、人間の“本物感”を感じることができています。

― 観客の皆様からの反響は届いていますか?

甲斐:InstagramのDMで感想を送ってほしいと呼びかけているので、本当にたくさんの方々から「今日観に行きました」と長文の感想をいただいています。その中でも一つ「すごいな」と思ったのがあって。稽古中に(ロジャーをWキャストで演じる)堂珍(嘉邦)さんを見ていて「大人の色気ってこういうことか」と感じたので、インスタライブで「(色気を出すには)どうしたらいいと思いますか」とファンの皆さんに聞いてみたことがあったんです。そこから色気に対する追求をしていたんですけど、この間いただいたDMの中に「目線をもっと斜めにやると色っぽく見えると思います」というアドバイスがあって。まばたきの仕方も参考になる動画を送ってきてくださって、「すごいな」と驚くと同時に、本当にありがたいですね。

その他にも、「今仕事ですごく苦しい状況で生きるのがつらいけど、『RENT』を観に来て明日への希望をもらいました」というメッセージをいただいたりすると、「そういうことを感じてほしかったんだ!」と思ったり。コロナの影響で、今年はきっと例年よりも悲しい思いをした人が多いと思うんです。だからこそ、『RENT』を2020年に届けることができた奇跡がより一層大きな意味を持つ感じがして。胸がいっぱいになりますね。自分が舞台上で演じられたということ以上に、こんな風に届いてくれたんだなということにやりがいを感じます。

― “色気の追求”という部分での手応えはいかがでしょう?

甲斐:いやあ…そこの手応えは…(笑)。どうしても生きてきた年数や経験が物を言ったりもしますし。所作はわざとらしくやると気持ち悪く見えたりもするので。最年少のロジャーなので、僕にしかできないロジャーは必ずあるのかなと。新しい風という意味では、“若さゆえに…”という要素もあったり。

ミュージカル『RENT』ゲネプロより(C)モデルプレス
― タンクトップ姿の衣装では、身体も一回り大きくなったように感じました。

甲斐:外出自粛の期間から『RENT』の稽古が始まる前まではかなり筋トレをしていました。いざ稽古が始まると毎日疲れちゃってジムにも行けず。メンタル的にきついこともあって、食べないとやってられなかったんですけど、それでも太らなくて。最近は逆に脂肪と一緒に筋肉も落ちてきました(笑)。特にマチソワをやると消費カロリーがすごいことに…。過酷ですよ(笑)。筋トレしておいてよかったですね。してなかったら今頃ガリガリになっていたかも。

― 筋トレに打ち込んだのはやはりステイホームの影響でしょうか?

甲斐:そうですね。自己投資という意味でも、これくらいしかできないなと。今のきつい時期が終わったらまた筋トレ始めたいですね。

“メンタルのスタミナ”を鍛え続けて得られたもの

ミュージカル『RENT』ゲネプロより(C)モデルプレス
― 稽古中のメンタル的なきつさについて、具体的にお聞かせいただけますか?

甲斐:アンディが興味を持っているのが“潜在能力”で、「君の潜在能力が100だとする。今が50なのであれば、50から100に拡張したい」ということを言っていて。でもそれってものすごく難しいし、自分の殻を破りまくらないといけない。自分にないものを散々求められる日々を過ごしていたので、やめたくなるというか、朝起きたくなくなることも全然ありました。だけどある日突然…髪を染めてからかな?自分の中で吹っ切れた感じがして。自分以外の誰かになる作業は自分だけでやろうとするのではなく、誰かの力を借りることも大切なんだということは今回の大きな学びでした。

僕はあんなに勝手じゃないし、イライラして誰かに八つ当たりすることもない。そもそもあんなに熱量のある人間でもないので、その熱を出すために火を付ける作業の繰り返しでした。最初はアンディに「全然火がついてないし、スタミナもない」と言われて。スタミナというのは、メンタルのスタミナです。(舞台の)3時間、燃やし続ける力。とても過酷な日々でしたが、今は少しずつリラックスしながら燃やすことができるようになりました。

“メンタルのスタミナ”って今回初めて聞きましたけど、つまり集中力だと思います。今までは映像をやってきたので、カメラが回った時にグッと集中をすればよかった。舞台は始まったら3時間ぶっ続けでその世界に没頭しなければならないので、確かに色々なスタミナが必要だなと。

― ミュージカルならではの楽しさを今どのように感じていますか?

甲斐:“生の空気”は舞台全般に言えることですが、『RENT』は特に生っぽいんですよね。エンジェルが死んでコリンズが歌っているところとか、「本当に死んだんだ」って思える瞬間があって、それをお客様と共有できる。ミミが死にそうだとか、お互い好きなのにすれ違ってるとか、そういうものを本当に自分ごととして観られる。ドラマを観るのとはまた違う、言葉以上のものを感じることができる空間なのかなと。

久しぶりに満員の会場で『RENT』を観て「やっぱこれだな」と思った、というコメントがたくさんあって、僕もその通りだなと思いますし、どうにか『RENT』も大千秋楽までいけたらいいなと。本当に『RENT』は刹那的に生っぽいんですよね。作り物じゃない感じがするんですよ。

― ロジャーを演じる甲斐さんへの客観的な評価で、特に印象的なものはありましたか?

甲斐:まずは「でかい」(笑)。ロジャーのブーツって底が10cmくらいあるので、実質195cmくらいになってしまって。常に舞台のセットをジャングルのようにくぐってます(笑)。あとは「ロジャーを甲斐くんがやるって聞いた時は正直イメージがつかなかったけれど、観て納得しました」という意見を聞いた時には「よし!」と心の中でガッツポーズでした(笑)。アンディに感謝です。

― 千秋楽までにさらにブラッシュアップしていきたいことはありますか?

甲斐:技術的なこともそうですが、ロジャーを演じる上ですごく難しいのが、過去を語る部分が少ないことなんです。でもすごく過去に囚われているから、観ているほうからすると「この人なに?曲書きたいなら書けばいいじゃん」って。この人はこんなに孤独で、人を愛することができなくて、でも愛の歌が書きたくて…っていう、その構図が最初からうまく伝えられたらと思うのですが、すごく難しいです。『RENT』を知らない人にもそれが伝わるのが理想ですね。

甲斐翔真(C)モデルプレス
― そして年明けには新たなミュージカル『マリー・アントワネット』が控えています。オーディションに合格し、出演が決まった時の心境をお聞かせください。

甲斐:2年前にこの作品を日本で観て、去年韓国でも同じ演出のものを観たんですけど、元々すごく好きな作品なんです。『デスノート』もそうですが、僕は人間の本質的な醜さみたいなものが出ている作品が好きで、『マリー・アントワネット』はそんなストーリーでありながら、曲は可憐で崇高。だからオーディションが受けられると聞いた時は即決で、オーディションで歌えただけでもすごく嬉しかったです。

だけど年齢的に若すぎるんじゃないかということは不安でしたし、歌い方もこれまでにやったことのないクラシカルな感じで、ある種大きな挑戦だったので、いざ受かった時は信じられなかったですね。まだ自分が出るという実感が難しいですが、楽しみで仕方ないです。一旦ロジャーのほうに振り切ってしまったので、また稽古は大変な作業になるとは思いますが、挑戦という意味ではすごく楽しみです。

― 作品を通じてどのような姿を見せたいですか?

甲斐:「えっ、君ってこんなことできたの!?」と思われたいです。(デスノートで演じた)夜神月やロジャーが系統で言えば現代人なのに対して、フェルセン伯爵は王子様のような人なので、所作や歌い方でまた違った表現ができたら、この先も視野が広がるんじゃないかなと。ここで一つ爪痕を残したいと思っています。

コロナ禍で冴え渡った生き方「今輝かずにいつ輝くんだ」

甲斐翔真(C)モデルプレス
― 2020年はエンターテイメントの形も大きく変化しました。甲斐さんご自身の仕事観にはどんな影響がありましたか?

甲斐:本当に未曾有の出来事が起きた時、人って生きることに必死になるじゃないですか。そこにエンタメはいらないんだな、と思ってしまった瞬間もあったんですけど、その空虚を埋めるためにはやっぱりエンタメが必要だなと。一旦は生きるのに必死になるんだけど、「待てよ、そうじゃない。“生きよう”」って。本当の意味で“生きる”ための要素というか、僕たちが人間らしくいるためには、衣食住もそうだけど、心を豊かにして生きる希望にもなるエンタメが必要なんです。衣食住が火を付ける燃料のアルコールだとしたら、それをよりよく燃やすための酸素がエンタメなんじゃないかなと。

甲斐翔真(C)モデルプレス
自分がこうして活動できていることは当たり前じゃないんだなと。やっぱり人って現実的に感じないと動けないもので。「このままこの仕事がなくなったらどうしよう」とか、「ミュージカルが全部なくなったらどうしよう、せっかく手にした切符が燃えちゃったらどうしよう」とか、本当に落ち込んでしまった時もありました。だけど、逆に前向きになりましたね。だったら今を大事にしよう、「今輝かずにいつ輝くんだ」と。これは『RENT』の影響も大きいんですけど、より「今を生きよう」という気持ちになりました。過去も未来も今につながっているんだから、今をよく生きればよりよい未来が待っている。今年はそういう考え方を学ぶことができたと思います。

― 最後に、これからチャレンジしたいことをお聞かせください。

甲斐:今はとにかく韓国に行ってミュージカルが観たい…!仕事面ではやっぱり『マリー・アントワネット』ですね。今は『RENT』でチャレンジしていますが、また構築していかなければならない。頑張らないとなと。本当だったらフランスに行って現地の雰囲気を感じたかったんですけど、今はなかなか難しいので、そんな中でもできる限りのことを突き詰めて、来ていただいたお客様には日本にいながら当時のフランスを感じてもらえるような時間をお届けできればと思っています。

(modelpress編集部)

甲斐翔真(C)モデルプレス

甲斐翔真(かい・しょうま)プロフィール

1997年11月14日生まれ。東京都出身。2016年~2017年『仮面ライダーエグゼイド』(テレビ朝日)にて、ミステリアスな敵役となる仮面ライダーパラドクスに変身するパラド役を演じブレイクする。主な出演作に、ドラマ『花にけだもの』(フジテレビ)、『覚悟はいいかそこの女子。』(TBS・MBS)、『ゼロ一獲千金ゲーム』(日本テレビ)、『いつか、眠りにつく日』(フジテレビ)、映画『君は月夜に光り輝く』、『デスノート THE MUSICAL』など。2020年は映画『シグナル100』、『君が世界のはじまり』、『#ハンド全力』が公開された。
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