<折坂悠太インタビュー>高い歌唱力と唯一無二の世界観で注目 お風呂が沸いた時の“音”で幸せを表現
2019.02.01 10:00
独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー・折坂悠太。鳥取で生まれ、ロシアやイランなどで過ごしたのち、現在は千葉を拠点に活動を続ける。2018年に発表したアルバム「平成」が音楽賞にノミネートされるなど、折坂が描く唯一無二の世界観は音楽業界から高い支持を集めている。
折坂が2月1日に公開した「湯気ひとすじ」のMVには女優でモデルの高橋ひかるも出演している。給湯器メーカー・ノーリツのCMのために書き下ろした今作はどこかエモーショナルな雰囲気の楽曲に、折坂らしい詩的な歌詞が聴く人に優しく寄り添う。物が溢れ豊かになった昨今、折坂の歌声は忘れがちな小さな幸せを思い出させてくれる。
折坂:普段から温度感のある楽曲は常に意識していますが、今回ノーリツさんからお話をいただき、歌詞も音も温かい感じにはしたいなと思いました。特に1番は情景描写も入れつつ、本当に湯気をくぐっているような感覚に、言葉や音から感じてもらえるといいなと。
― 歌詞、曲のどちらかが先というよりは同時進行で?
折坂:そうですね。今回は同時進行で言葉と曲を組み合わせていきました。
― 楽器はアコースティックギターのみの部分もありますが、これは温かい雰囲気を出すためにあえて?
折坂:そういう部分もありますね。僕の主な演奏形態が弾き語りというのもあるんですけど。
― 歌い方も工夫されましたか?
折坂:普段自分が歌っているキーよりも少し低めにして、より家の中でボソボソ歌っている感じを出しました。普段ステージでは「わーっ」と、大きい声でシャウトしたりもしているんですけど(笑)。今回は一人でお風呂の中でつぶやいて歌う感じを意識しています。普段とは違う雰囲気なので、自分なりにも新しい発見があってすごく楽しいお仕事でした。
― お風呂というテーマにピッタリの楽曲ですが、楽曲制作は世界観から入っていくような流れで?
折坂:そうですね。今回はノーリツさんから頂いたお話だったので、テーマもすごく身近でした。普段僕が歌っている歌の世界観は自分のいる生活から飛躍したり、また戻ってきたりするんですが、今回はぐっと自分の生活に寄せて実感のある言葉と情景を紡ぎました。
― 普段の楽曲制作とは違う部分も?
折坂:ありましたね。普段とは全然違う作り方だったんですが、でもどちらも好きですごくやりがいのある作業でした。
― どちらもご自身の経験がベースになっていますか?
折坂:普段の自分の曲で書く歌詞なんかは、「こういう人もいるんじゃないかな」と考えてその人になりきり歌うことはあるんです。ただ今回は本当に自分の生活の中から出てきた歌詞でしたね。
折坂:過去の経験というよりも、今ですね(笑)。今の僕の日常に近い歌詞になっています。“生活の中”や“家の中”においての「お風呂」ってどういう場所だろうと考えた時、CMの映像にもあるように一人になる事が多いと思うんです。小さい子と一緒に入ったりする方もいると思うんですが、家族が集まって食卓を囲み今日の出来事を楽しく話した後に、お風呂に入り一人で振り返る時間がある。
― 歌詞でもそういった表現がありましたね。
折坂:はい。1番の“集まった声が静けさに戻ってゆく”というのは一人になる時間をイメージして作りました。僕は今日あったことを家族に結構話す質なので、モヤモヤしていることをわーっと喋って整理するんです。家族に「そんなことがあったんだね」と聞いてもらい初めてその日にあったことが消化される感じがして。2番の“問わず語りのこの心 きみは箸でより分ける”は、良くも悪くもモヤモヤした気持ちを家族が「そんなの大したことじゃないよ」と一蹴してくれるというか。気持ちが軽くなる感覚を歌詞で表しています。「“大したことない”とはなんだ!」と思うこともあるんですけど(笑)。
― (笑)。確かに伝えるだけで気分が軽くなることはありますね。
折坂:そうなんですよ。家族の距離感って絶妙で、気持ち良いことばかりを言ってくれるわけではないじゃないですか。家族だからこそ正直に言い合い、チクっと刺さる言葉もあったりして。鬱陶しいと感じながら、家族の言葉を聞かずに「もうお風呂いっちゃおう」って(笑)。愛おしさと鬱陶しさが一緒にある感覚は、いわゆる家族の幸せだと思ったので、そういった微妙な感情を2番の歌詞にいれました。
― 鬱陶しいと思える相手がいるのは幸せなことなのかもしれないですね。
折坂:僕の中でそこはポイントになっていて。鬱陶しく思っていても話したい気持ちが一緒になっていて、それが良いとか悪いとかではなく家族のカタチなんだろうなと。どんな家族を見ていても感じるところなんです。自分が生活していても思うし、要はそれが「幸せ」なんじゃないだろうかと感じたんです。その日常にはいつもお風呂がある。最後は一人でお風呂に入り振り返る。お風呂ってそういう場所なのかなと思います。
― 幸せとはどういうものなのかを押し付けるのではなく、日常に寄り添った雰囲気が折坂さんらしくて素敵でした。
折坂:ありがとうございます。僕もこの歌詞がすごく好きなんですけど、ノーリツさんにこれでOKして頂けるのかすごく不安で(笑)。これでいいと言ってくださったノーリツさんにはすごく感謝しています。
― お話があった時はどう思われましたか?
折坂:お湯が湧いた時に「人形の夢と目覚め」(※1)が流れるのがノーリツ製品だということを失礼ながら知らなくて。それを教えていただいた時に「あ!あの音だ!」って思い出したんです。僕の母方のおばあちゃん家がノーリツの給湯器なんですよ。ものすごく自分の身近にあった音がノーリツ製品だと分かり、生活の中に一緒にいたんだなって思いました。それがなんか嬉しかったですね。
(※1)ノーリツ製給湯器のお湯はりの完了を知らせるメロディとして採用している。
― 「湯気ひとすじ」にも「人形の夢と目覚め」のメロディが使われていますね。
折坂:家の中でいつもの日常がゆっくり流れていて、その中にあのメロディとリズムがパッと入ってくると「あ、もうこんな時間か」「お風呂に入って寝なきゃ」と感じる風景を表せないかなと思い、途中に入れてみました。「人形の夢と目覚め」はお風呂が沸く時のメロディなので、歌詞もお風呂に入っている途中というよりは、入る前のお風呂がある風景を描いています。でも音や歌の響きから受ける印象は湯気の中にいる温かい感じを意識しました。お風呂に入っている時に口ずさんでいるような音楽にしたいなと思っていたんです。
折坂:もちろんシャワーは浴びていたんですけど、湯船に浸かることは全然なかったですね。形式も日本とは違っていて、お風呂とトイレが一緒になっているしバスタブで全部済ませますしね。
― お風呂に入る目的というか、意味が日本とは若干違うんですかね。
折坂:そうかもしれないですね。日本のほうが一日の中でお風呂が締める割合が大きい感じはしますね。
― 折坂さんにとってお風呂はどんな場所ですか?
折坂:今うちには2歳の男の子がいて、お風呂は息子と一緒に入ることが多いです。子どもと入るようになってからは、子供の成長を感じる時間になりましたね。もちろん自分の頭の中を整理する時間だったり、お風呂の中で歌詞が閃いて曲が生まれることもよくあって、やっぱり自分を顧みるような時間でもあるような気がします。
折坂:記憶ではないんですが、お風呂に一緒に入ってる写真があるんです。父と姉と僕とで狭い浴槽に入ってる写真が。それを見ると今の自分も同じような状況で、お風呂もそうやって受け継がれていくように感じます。
― 年齢や世代によってもお風呂の意味は変わってきますね。
折坂:そうですね。一人で入って、家族が出来て、娘と一緒に入って、どんどん大きくなり一緒には入らなくなり、また一人になる。そこにも人生がありますね。
― 親にしてみればお風呂は子の成長を感じられる場所なのかもしれないですね。
折坂:うちの子はまだ2歳で「頭洗うよ」「上がるよ」と言っても、今は「やだやだ」ってずっと遊んでいるんです。でもいつかは自分で洗えるようになったりして。同じ場所、同じシチュエーションだからこそ、成長を感じることができますね。
― 息子さんとはほぼ毎日一緒にお風呂へ?
折坂:僕がいる日は、それが係なんです。ウッドベースを弾いている宮坂洋生さんという方にも娘さんがいて、ノーリツさんのMVを見る度に「ちょっと泣きそうになる」「やばいです」って(笑)。やっぱり娘がいると感慨深いものがあるんですね。うちは息子なので、ちょっと違うかもしれないですけど。
― 確かにそうですね。折坂さんは「みーちゃん」(※2)のモチーフになっているお姉さんもいらっしゃいますが、一緒にお風呂に入った記憶も?
折坂:入っていましたね。バカみたいに遊んでいました(笑)。浴槽のヘリに足をかけて、バシャーンって2人で入ると泡が立つんです。今思い出したんですけど、それが楽しくてひたすらやっていましたね(笑)。
(※2)折坂自身と実姉の幼少期がモチーフになっている楽曲。
折坂:“幸せ”という気持ちは、ただ楽だなとか楽しいなっていう感情だけじゃない気がしているんです。年末年始は実家へ帰り僕の家族や両親と共に過ごしたんですけど、一緒に住んでいる時は疎ましかったそぶりや言動が、自分にそっくりだなと感じることがあったんです。実家を離れて自分の家庭を持つと、両親と僕はどういう部分で似ているのか分かるようになるんですよね。それは嬉しい気持ちよりは気恥ずかしくてむず痒いような気持ち。「自分もこういうところあるな」としみじみ感じた時に、「これが幸せってことなのかもしれない」と気付いたんです。
― 離れたからこそ気付けることもあるかもしれないですね。
折坂:そうですね。離れるだけではなく、例えば息子は僕の奥さん似で「顔のここが似てる」とか「あ、でもここは自分に似ているかも」と探してる瞬間は家族ならではの幸せだと感じます。きっとうちの息子がそれを疎ましく思う時期もくるんだろうし、僕みたいに大人になって受け入れられるようになる時もくる。そういう繋がりは「幸せ」ですね。
― お風呂のある日常のように“幸せ”はすごく身近にあるのだと感じることができました。ありがとうございました!
時に強く訴えかけ、時に優しく寄り添う折坂の音楽。どの楽曲にしても決して押し付けがましく感じないのは、彼の紡ぐ音や詩にどこか共感する部分があるからなのかもしれない。「湯気ひとすじ」も、日常にある小さな“幸せ”を聞き手自らが気付く(思い出す)体験を与えてくれる。圧倒的な歌唱力や、唯一無二の世界観もさることながら、共感できる部分があるからこそ折坂は多くの支持を集めているのだろう。(modelpress編集部)[PR]提供元:株式会社ノーリツ
平成元年、鳥取生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。
目次
折坂悠太「自分なりにも新しい発見が」
― 折坂さんの楽曲は様々なルーツのサウンドを取り入れながらも、歌詞は詩的で情緒あふれる日本語で描かれています。今回新しく発表された「湯気ひとすじ」はどのようにして生まれたのかお聞かせください。折坂:普段から温度感のある楽曲は常に意識していますが、今回ノーリツさんからお話をいただき、歌詞も音も温かい感じにはしたいなと思いました。特に1番は情景描写も入れつつ、本当に湯気をくぐっているような感覚に、言葉や音から感じてもらえるといいなと。
― 歌詞、曲のどちらかが先というよりは同時進行で?
折坂:そうですね。今回は同時進行で言葉と曲を組み合わせていきました。
― 楽器はアコースティックギターのみの部分もありますが、これは温かい雰囲気を出すためにあえて?
折坂:そういう部分もありますね。僕の主な演奏形態が弾き語りというのもあるんですけど。
― 歌い方も工夫されましたか?
折坂:普段自分が歌っているキーよりも少し低めにして、より家の中でボソボソ歌っている感じを出しました。普段ステージでは「わーっ」と、大きい声でシャウトしたりもしているんですけど(笑)。今回は一人でお風呂の中でつぶやいて歌う感じを意識しています。普段とは違う雰囲気なので、自分なりにも新しい発見があってすごく楽しいお仕事でした。
― お風呂というテーマにピッタリの楽曲ですが、楽曲制作は世界観から入っていくような流れで?
折坂:そうですね。今回はノーリツさんから頂いたお話だったので、テーマもすごく身近でした。普段僕が歌っている歌の世界観は自分のいる生活から飛躍したり、また戻ってきたりするんですが、今回はぐっと自分の生活に寄せて実感のある言葉と情景を紡ぎました。
― 普段の楽曲制作とは違う部分も?
折坂:ありましたね。普段とは全然違う作り方だったんですが、でもどちらも好きですごくやりがいのある作業でした。
― どちらもご自身の経験がベースになっていますか?
折坂:普段の自分の曲で書く歌詞なんかは、「こういう人もいるんじゃないかな」と考えてその人になりきり歌うことはあるんです。ただ今回は本当に自分の生活の中から出てきた歌詞でしたね。
誰もが感じる家族との微妙な距離感
― 「湯気ひとすじ」で描かれている情景も折坂さんの経験がベースに?折坂:過去の経験というよりも、今ですね(笑)。今の僕の日常に近い歌詞になっています。“生活の中”や“家の中”においての「お風呂」ってどういう場所だろうと考えた時、CMの映像にもあるように一人になる事が多いと思うんです。小さい子と一緒に入ったりする方もいると思うんですが、家族が集まって食卓を囲み今日の出来事を楽しく話した後に、お風呂に入り一人で振り返る時間がある。
― 歌詞でもそういった表現がありましたね。
折坂:はい。1番の“集まった声が静けさに戻ってゆく”というのは一人になる時間をイメージして作りました。僕は今日あったことを家族に結構話す質なので、モヤモヤしていることをわーっと喋って整理するんです。家族に「そんなことがあったんだね」と聞いてもらい初めてその日にあったことが消化される感じがして。2番の“問わず語りのこの心 きみは箸でより分ける”は、良くも悪くもモヤモヤした気持ちを家族が「そんなの大したことじゃないよ」と一蹴してくれるというか。気持ちが軽くなる感覚を歌詞で表しています。「“大したことない”とはなんだ!」と思うこともあるんですけど(笑)。
― (笑)。確かに伝えるだけで気分が軽くなることはありますね。
折坂:そうなんですよ。家族の距離感って絶妙で、気持ち良いことばかりを言ってくれるわけではないじゃないですか。家族だからこそ正直に言い合い、チクっと刺さる言葉もあったりして。鬱陶しいと感じながら、家族の言葉を聞かずに「もうお風呂いっちゃおう」って(笑)。愛おしさと鬱陶しさが一緒にある感覚は、いわゆる家族の幸せだと思ったので、そういった微妙な感情を2番の歌詞にいれました。
― 鬱陶しいと思える相手がいるのは幸せなことなのかもしれないですね。
折坂:僕の中でそこはポイントになっていて。鬱陶しく思っていても話したい気持ちが一緒になっていて、それが良いとか悪いとかではなく家族のカタチなんだろうなと。どんな家族を見ていても感じるところなんです。自分が生活していても思うし、要はそれが「幸せ」なんじゃないだろうかと感じたんです。その日常にはいつもお風呂がある。最後は一人でお風呂に入り振り返る。お風呂ってそういう場所なのかなと思います。
― 幸せとはどういうものなのかを押し付けるのではなく、日常に寄り添った雰囲気が折坂さんらしくて素敵でした。
折坂:ありがとうございます。僕もこの歌詞がすごく好きなんですけど、ノーリツさんにこれでOKして頂けるのかすごく不安で(笑)。これでいいと言ってくださったノーリツさんにはすごく感謝しています。
― お話があった時はどう思われましたか?
折坂:お湯が湧いた時に「人形の夢と目覚め」(※1)が流れるのがノーリツ製品だということを失礼ながら知らなくて。それを教えていただいた時に「あ!あの音だ!」って思い出したんです。僕の母方のおばあちゃん家がノーリツの給湯器なんですよ。ものすごく自分の身近にあった音がノーリツ製品だと分かり、生活の中に一緒にいたんだなって思いました。それがなんか嬉しかったですね。
(※1)ノーリツ製給湯器のお湯はりの完了を知らせるメロディとして採用している。
― 「湯気ひとすじ」にも「人形の夢と目覚め」のメロディが使われていますね。
折坂:家の中でいつもの日常がゆっくり流れていて、その中にあのメロディとリズムがパッと入ってくると「あ、もうこんな時間か」「お風呂に入って寝なきゃ」と感じる風景を表せないかなと思い、途中に入れてみました。「人形の夢と目覚め」はお風呂が沸く時のメロディなので、歌詞もお風呂に入っている途中というよりは、入る前のお風呂がある風景を描いています。でも音や歌の響きから受ける印象は湯気の中にいる温かい感じを意識しました。お風呂に入っている時に口ずさんでいるような音楽にしたいなと思っていたんです。
折坂悠太が感じた風呂に対する海外と日本の違い
― 日常的にお風呂に入る日本の文化は世界でも稀だと聞きますが、ロシアやイランで過ごしていた頃はどうされていましたか?折坂:もちろんシャワーは浴びていたんですけど、湯船に浸かることは全然なかったですね。形式も日本とは違っていて、お風呂とトイレが一緒になっているしバスタブで全部済ませますしね。
― お風呂に入る目的というか、意味が日本とは若干違うんですかね。
折坂:そうかもしれないですね。日本のほうが一日の中でお風呂が締める割合が大きい感じはしますね。
― 折坂さんにとってお風呂はどんな場所ですか?
折坂:今うちには2歳の男の子がいて、お風呂は息子と一緒に入ることが多いです。子どもと入るようになってからは、子供の成長を感じる時間になりましたね。もちろん自分の頭の中を整理する時間だったり、お風呂の中で歌詞が閃いて曲が生まれることもよくあって、やっぱり自分を顧みるような時間でもあるような気がします。
折坂悠太、姉とは「バカみたいに…」
― 小さい頃に両親にお風呂に入れてもらった記憶はありますか?折坂:記憶ではないんですが、お風呂に一緒に入ってる写真があるんです。父と姉と僕とで狭い浴槽に入ってる写真が。それを見ると今の自分も同じような状況で、お風呂もそうやって受け継がれていくように感じます。
― 年齢や世代によってもお風呂の意味は変わってきますね。
折坂:そうですね。一人で入って、家族が出来て、娘と一緒に入って、どんどん大きくなり一緒には入らなくなり、また一人になる。そこにも人生がありますね。
― 親にしてみればお風呂は子の成長を感じられる場所なのかもしれないですね。
折坂:うちの子はまだ2歳で「頭洗うよ」「上がるよ」と言っても、今は「やだやだ」ってずっと遊んでいるんです。でもいつかは自分で洗えるようになったりして。同じ場所、同じシチュエーションだからこそ、成長を感じることができますね。
― 息子さんとはほぼ毎日一緒にお風呂へ?
折坂:僕がいる日は、それが係なんです。ウッドベースを弾いている宮坂洋生さんという方にも娘さんがいて、ノーリツさんのMVを見る度に「ちょっと泣きそうになる」「やばいです」って(笑)。やっぱり娘がいると感慨深いものがあるんですね。うちは息子なので、ちょっと違うかもしれないですけど。
― 確かにそうですね。折坂さんは「みーちゃん」(※2)のモチーフになっているお姉さんもいらっしゃいますが、一緒にお風呂に入った記憶も?
折坂:入っていましたね。バカみたいに遊んでいました(笑)。浴槽のヘリに足をかけて、バシャーンって2人で入ると泡が立つんです。今思い出したんですけど、それが楽しくてひたすらやっていましたね(笑)。
(※2)折坂自身と実姉の幼少期がモチーフになっている楽曲。
「疎ましさ」や「気恥ずかしさ」も“幸せ”
― 折坂さんが日常的にふと「これは幸せだな」と気付く経験はありますか?折坂:“幸せ”という気持ちは、ただ楽だなとか楽しいなっていう感情だけじゃない気がしているんです。年末年始は実家へ帰り僕の家族や両親と共に過ごしたんですけど、一緒に住んでいる時は疎ましかったそぶりや言動が、自分にそっくりだなと感じることがあったんです。実家を離れて自分の家庭を持つと、両親と僕はどういう部分で似ているのか分かるようになるんですよね。それは嬉しい気持ちよりは気恥ずかしくてむず痒いような気持ち。「自分もこういうところあるな」としみじみ感じた時に、「これが幸せってことなのかもしれない」と気付いたんです。
― 離れたからこそ気付けることもあるかもしれないですね。
折坂:そうですね。離れるだけではなく、例えば息子は僕の奥さん似で「顔のここが似てる」とか「あ、でもここは自分に似ているかも」と探してる瞬間は家族ならではの幸せだと感じます。きっとうちの息子がそれを疎ましく思う時期もくるんだろうし、僕みたいに大人になって受け入れられるようになる時もくる。そういう繋がりは「幸せ」ですね。
― お風呂のある日常のように“幸せ”はすごく身近にあるのだと感じることができました。ありがとうございました!
時に強く訴えかけ、時に優しく寄り添う折坂の音楽。どの楽曲にしても決して押し付けがましく感じないのは、彼の紡ぐ音や詩にどこか共感する部分があるからなのかもしれない。「湯気ひとすじ」も、日常にある小さな“幸せ”を聞き手自らが気付く(思い出す)体験を与えてくれる。圧倒的な歌唱力や、唯一無二の世界観もさることながら、共感できる部分があるからこそ折坂は多くの支持を集めているのだろう。(modelpress編集部)[PR]提供元:株式会社ノーリツ
折坂悠太(オリサカ・ユウタ)プロフィール
平成元年、鳥取生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。