モデルプレスのインタビューに応じた又吉直樹 (C)モデルプレス

又吉直樹、第2弾小説で“恋愛”を描いた理由 作家、ピースとしての夢とは

2017.05.09 08:00

お笑いコンビ・ピース又吉直樹(36)が、モデルプレスのインタビューに応じた。芥川賞を受賞した『火花』に続く長編小説第2作『劇場』の単行本が5月11日、発売。自身初の恋愛小説に挑んだ又吉が、今作に込めた思いや、作家として、ピースとしてのこれからについて話を聞いた。

  
今作を一挙掲載した『新潮』4月号は、緊急重版分を含めて文芸誌としては異例の5万部を発行。発売日当日に売り切れる書店が続出し、重版分も数日で完売状態となった。

早くも話題を呼んでいる『劇場』は、売れない劇作家・永田が主人公の恋愛小説。ある日、原宿の雑踏で、女優を目指して上京した大学生の沙希と運命的に出会った永田は、やがて恋人となった彼女の部屋でともに暮らしはじめる。自らの夢とうまくいかない現実のはざまで葛藤を抱えながら、かけがえのない大切な人を想うせつなく胸に迫まる青春恋愛小説だ。

『劇場』ができるまで “恋愛”をテーマにした理由

― 単行本発売、おめでとうございます。すでに又吉さんご自身にも反響は届いていますか?

又吉:皆さん楽しんでくださってるみたいです。今できることの全力は尽くしましたし、自分が納得できる形で作品にできたんじゃないかなとは思っています。

― 前作の『火花』よりも前に今作の執筆を始めていらっしゃったそうですね。一旦中断していたところを1年前から再開して、ようやく完成されたと。

又吉:そうですね。結構時間をかけました。

― その中断されていた理由というのは、なかなか筆が進まないというような苦労があったのでしょうか?

又吉:苦労…そうですね。でも僕の希望でもあったんです。『火花』はわりと短い期間に集中して書いたんですが、この『劇場』はじっくり時間をかけてやりたいなというのがあったので、編集の方にもその意向をお伝えしていました。一度完成してからも期間を用意してもらって、直す作業が出来るようにしたいっていう希望を伝えて。だから苦しんで苦しんでようやく出来たっていう部分もあったんですけど、そうやって悩みながら作ることを最初から望んでもいたんです。

又吉直樹 (C)モデルプレス
― じっくり時間をかけたかったというのはなぜでしょう?恋愛をテーマに選んだことと関係しているんでしょうか?

又吉:一つは人間と人間の関係性みたいなものにすごく興味があるんです。1人の人間というよりは人と人の間みたいな部分。『火花』も先輩と後輩っていう関係性でしたけど。そういう人と人の関係で言うと、たとえば恋愛とか家族っていうのは音楽にしても小説にしても、ずっと語られ続けてきた、誰にでも伝わるテーマだと思うんです。急にアルゼンチンの住宅事情を歌にしても誰も興味ないじゃないですか(笑)。

一方で恋愛小説は誰もが書いてるからこそ、比較される作品も多いし、もしかしたらすごく難しいことなのかもしれない。だけどそこは生きていく中での興味というか、じっくり時間を作って向き合いたかったものなんです。

我々芸人が医者コントをする時って、「おもろい医者コントはいっぱいあるから難しい」ってよく言われるんですよね。で医者コントって避けるんですけど。小説で言うと恋愛小説って医者コントみたいなものなんです(笑)。

― 医者コントですか(笑)。そこにあえて挑戦した。

又吉:小説を書く時って僕は自分が一番真剣に考えたいことを書いた方がいいと思うんですよね。興味ないことになると知りたくもないし、考える時間も勿体無いし、苦痛なんです。でも好きなこと、興味あることに関してはどれだけでも時間を使えるというか。だから恋愛っていうのも僕にとっては本当に重要なんですよね。

又吉直樹 (C)モデルプレス
― 例えば行き詰まって書くことを放棄したくなるようなこともないですか?

又吉:むしろもっとこの作業に没頭できる時間があればどんだけ嬉しいやろなっていう方ですね。難しいことを放っておくと言うよりは、ずっとやっていたいっていうほうが強いです。

― お笑いの仕事と執筆作業の両立という面で苦労されたことは?

又吉:特に去年からありがたいことに忙しくさせていただいているので、確かに『火花』の時よりも小説を書く時間を作るのは大変やったんですけど、でもそれがあるおかげで書けたっていう部分ももちろんあるんです。それはテレビに出ているから注目してもらえるっていうこと以外にも、お笑いライブやテレビに出てることが作品にもいい影響を与える。そう周りに言っていただいて、確かにその通りやなって思ってます。だから精神的には大丈夫です、はい(笑)。

自身の恋愛経験を反映 又吉の恋愛観

又吉直樹 (C)モデルプレス
― 今作に登場するヒロイン・沙希は、主人公の売れない劇作家・永田を支えていく存在です。『火花』に出てきた真紀と通じる部分があるのかなと感じました。

又吉:ああ、確かにそうですね。

― 作品には又吉さんご自身の理想の女性像が投影されているんですか?

又吉:そうですね。でも今の僕やったら沙希みたいにあんなに尽くしてくれると逆にすごく気を遣ってしまうから、ちょっと厳しい女性くらいのほうがいいかもしれないです。

― 容赦なくビシッと言ってくれる女性?

又吉:はい。…いや、厳しい方がいいって取材では言うんですけど、ほんまのこと言ったらああいう支えてくれるやさしい人が好きでしょうね(笑)。

― (笑)。永田と沙希の会話のやりとりは、又吉さんが以前バラエティ番組でお話されていたご自身の恋愛エピソードにも似ているような部分もあって、実体験も反映されているのかなと思ったのですが…。

又吉:自分の経験が繋がっているっていうのはあるかもしれないですね。沙希の行動も永田の行動もなるほどなとか、もしかしたら自分もそうするかもっていうのはあるんです。僕と登場人物、すべての登場人物は繋がっているかなって思います。

夢を叶える秘訣

又吉直樹 (C)モデルプレス
― 『火花』も『劇場』も、又吉さんの作品は“夢”が一つのテーマとして描かれています。又吉さんご自身は、夢を叶えるために大切なことはどんなことだと思いますか?

又吉:たとえば僕と全く同じ能力のやつがいるとしたら、時間をかけたもん勝ちやろと思っているんです。1つのお題に対して相手は3時間かける。で、僕は1ヶ月かける。そうしたら僕の方が勝つ可能性って高いと思うんですよね。だとしたら、どんだけ自分の好きなことのために時間を費やせるかで勝負は決まってくる。

例えばサッカーとかって、チームによって資本力が違うじゃないですか。すっごくいい選手を高額で取れるビッグチームのほうが勝率は高い。世の中ってだいたいそういう不平等なことも多いんですけど、時間に関しては全員平等。その時間をどれだけ作れるかっていうことだけは法律で禁止されてないんです。だから、いかに自分で時間を作るかっていうのが成功の1つの鍵なんかなとは思います。

― では又吉さんご自身の今の夢は何でしょう?

又吉:夢はいっぱいあるんですけどねえ…まず今年一つ大きいライブをやるっていうのは夢というか目標としてあります。その先はなんやろなあ。ライブか小説か、その表現は何かわからないですけど、みんながすごく笑える何かを作りたいですね。

小説って必ずしも笑いの方だけに向いてるわけじゃなかったりするので、小説でもこのあたりで1回笑いの方向にもっていくのもいいかな。小説でボケるとか、笑わすっていうことを一切考えずにこの2作を書いたんで、ほんまに笑かそうと思ったらどういうものになるのかって研究もしてないですからね。そういうの考えるのは楽しいやろなと思います。

― 笑いに振り切った小説、楽しみです。ではピースとしての夢は?

又吉:ピースとしての夢は、綾部(祐二)がアメリカで大成功して日本に帰ってきて、チケットの倍率10倍にするって言ってたので(笑)。ハリウッドスターになった綾部を見てみたいですね。同時にストレスで太って、ハゲて、歯医者も行けなくて前歯抜けてボロボロになってるあいつとトークライブやったほうがウケやすいやろなとも思いますけど(笑)。そのどっちかですね。中途半端な感じで帰ってこられるのが一番嫌ですね(笑)。

― (笑)。素敵なお話、ありがとうございました。

(modelpress編集部)

又吉直樹(またよし・なおき)プロフィール

1980年6月2日生まれ。大阪府出身。高校卒業後、芸人を目指して上京し吉本総合芸能学院(NSC)に入学。2003年、同期の綾部祐二とお笑いコンビ・ピースを結成。2010年、キングオブコントで準優勝、M-1グランプリで4位に輝く。芸人として活躍する一方で、エッセイや俳句など文筆活動も行う。2015年1月、文芸誌「文學界」にて「火花」を発表し純文学デビュー、第153回芥川賞を受賞。
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