モデルプレスのインタビューに応じた西村誠司氏(C)モデルプレス

にしたん社長・西村誠司氏が不妊治療に人生を懸ける理由 鍵は父母の言葉

2025.09.01 17:00

メディアで見せる親しみやすい姿と、緻密な戦略家としての顔を併せ持つ、エクスコムグローバル株式会社の代表取締役社長・西村誠司氏(にしむら せいじ/55)。彼が率いる「にしたんARTクリニック」は、今や不妊治療・卵子凍結の領域で、業界を牽引する存在となっている。

多くの女性を支える革命的な事業は、いかにして生まれたのか。本インタビューでは前編・後編にわたり、その型破りな発想と行動力の源泉にある、壮絶な“原点”に迫る。

「勝てば官軍」その言葉に秘められた、壮絶な原点

西村誠司氏(C)モデルプレス
西村誠司氏(C)モデルプレス
ー 型破りな発想と行動力で常に注目を集めていますが、ご自身の“原点”はどこにあるのでしょうか?幼少期の経験が、今の価値観にどう直結しているのか教えてください。

西村社長:子どもの頃、重度のアルコール依存症だった母が酔っぱらうといつも口癖のように言っていた言葉があります。「首のないのは人でないのと一緒だ」と。つまり、お金がないのは人間が首なしでいるのと同じくらい不完全で、惨めなことだと。その言葉は、嘆き節というより、お金がないことの辛さ、惨めさを表していました。だから、とにかく経済的に成功して勝たなければいけない、負けたら人から何を言われようがどうしようもない、という価値観が染みつきました。

ー お母様の言葉は単なる反骨心ではなく、「惨めな思いをさせない」という、守るための強さのように感じます。

西村社長:私のTikTokにも「勝てば官軍」と書いてありますが、世の中は本当にシビアです。スポーツの世界でも結果を出せなければクビになりますし、メディアにも叩かれる。私たちの世界も結果を出し続けないと、人に馬鹿にされようが何を言われても仕方ありません。だから、そうならないために何が何でも勝ちに、お金を稼ぐことにこだわってきたのかもしれません。

 父が病気で働けず、私たちを養えなかったことへの不甲斐なさも感じていました。一度、父と口論になった時に「あなたが稼げないせいで、うちはこんな状況なんだ」と言ってしまったことがあります。大人になって、なぜあんな酷いことを言ったのかと後悔しましたが、それを言われた時の父の無念さ、惨めさはどれほどだったかと。自分が圧倒的に稼げば、家族も従業員も守れるし、あんな思いはさせません。でも、逆に貧しかったからこそ、これだけのハングリー精神が生まれました。

「職業は、起業家」―新聞配達で培われた“頼れるのは自分だけ”という哲学

ー 中学時代から新聞配達をされていたとのことですが、親に頼らずご自身の力で稼ぐという経験は、西村社長にとってどのような意味がありましたか?

西村社長:働くこと自体に嫌な気持ちは全くなく、「周りの子が働いていないのになんで自分だけ」という思いも一切ありませんでした。それが当たり前だと感じていたので、全然それでよかったです。10代の頃は、誰よりも勤勉に働いたという自負がありますし、その経験を通して「働いた分だけ稼げる」という感覚が身についたのは、すごくよかったですね。親としても、お小遣いを渡せるような状況ではなかったので、自分で働いて、そのお金をお小遣いにあてる、というような雰囲気でしたね。そのお金で家族で使える家電を買ったりもしました。

ー そのハングリー精神が、常に新しい分野へ挑戦し続けるエネルギーになっているのですね。

西村社長:結局、私の原点、アイデンティティは「起業家」です。社長というより、アントレプレナーとして世の中にないものを0から生み出していく。人がやったことのないことに挑戦するDNAが、私の根っこにはあります。秋元康さんが今でも自分を「作詞家」と言うように、私の職業は「起業家」。リスクを取って、世の中に価値あるものを生み出すことです。

 中学時代から自分の腕一本で稼いできたことで、「頼れるのは自分の能力と行動しかない」と、いい意味で自立できた。だからこそ、自分が結果さえ出せば人から文句を言われる筋合いはない、という思いが今の自分を作っていると思います。

常識を破壊し、新たな価値を創造するエネルギーの源泉

西村誠司氏(C)モデルプレス
西村誠司氏(C)モデルプレス
ー WiFi、PCR検査、そして医療と、常に新しい分野へ挑戦し続ける圧倒的なエネルギーの源泉は何なのでしょうか?

西村社長:これも先ほどの話と繋がりますが、どこかで「自分は圧倒的な結果を出さなければいけない」という思いがあるのでしょう。周りから馬鹿にされたり、なめられたりしないために、という部分が大きいと思います。

ー「馬鹿にされたくない」という思いが原動力だとすると、逆に批判的な声や、心無い言葉を向けられた時は、人一倍気になってしまうのではないでしょうか?

西村社長:批判は全く気になりません。人にはそれぞれの価値観があり、それが多様性です。批判する人は、その人にとっての正義を語っているわけですから、それは間違っていません。SNSを始めてから、さらに色々な意見があることを実感しますが、そういう人たちがいるのが社会ですから、それを正そうとも思いません。

ー 批判に心を乱されない強さ、まさに懐が深いですね。とはいえ、経営者としてのプレッシャーは別かと思います。どのように息抜きをされていますか?

西村社長:それはもう、娘の笑顔に触れることですね。今9歳なのですが、子どもって本当にちょっとしたことで屈託なく笑うでしょう。それを見ているだけでリフレッシュになります。あとは、2匹のチワワと触れ合う時間も癒しです。

“ゲイン・ロス効果”の戦略家?――TikTokで見せる顔と経営者としての顔

西村誠司氏(C)モデルプレス
西村誠司氏(C)モデルプレス
ー TikTokで見せる天真爛漫な姿と、緻密な戦略家としての姿、ご自身ではこの二つの人格をどう使い分けていますか?

西村社長:使い分けているという感覚はあまりありません。共存している感じです。ビジネスのことは寝ても覚めてもバックグラウンドで常に考えていますが、普段の振る舞いは自然体です。

ー では、メディアで拝見する派手なキャラクターは、あえて?

西村社長:お金を前面に押し出す企画は、分かりやすさがありますよね。高級車、豪邸、ブランド品…イメージは悪いかもしれません。でも、「ゲイン・ロス効果」という言葉があるように、最初の印象をあえて悪く見せておいた方が、後からプラスに転じる幅が大きいのです。「意外といい人じゃん」と。

 逆によく見せすぎると、少しのマイナスで評価が大きく下がってしまう。だから、私は「成金趣味で気持ち悪い」くらいに思われていて丁度いい。実際に会った時に「全然そんなことないんだね」となった方がいいですから。これは結構言われることが多いので、あえてそういう分かりやすいテンプレに寄せています。

ー 全ては計算されたセルフブランディングだったのですね。街で声をかけられることも多いそうですが、そのギャップが人を惹きつけているのだと思います。

西村社長:家族といる時は気を遣ってか、声をかけられませんが、一人でいると毎日のように声をかけられます。昨日も動画を撮りましたし、一昨日は20代のカップルに声をかけてもらいました。年齢層は本当に幅広いです。声をかけられたら、いつもこんな感じで気さくに話します。

“100倍打席に立つ男”――なぜ婦人科医療の世界へ?

ー 様々な事業を成功させている中で、なぜデリケートで参入障壁の高い「クリニック」特に「婦人科医療」の世界に足を踏み入れようと決意したのでしょうか?

西村社長:私をこの世界に導いたのは、二つの原体験があったからです。一つは、2015年に授かった娘の存在。当時、私も妻も40歳を超えていて、アメリカで最先端の不妊治療を受けました。もしあの時の高度な医療、例えば染色体の検査などがなければ、娘はきっとこの世に生まれてこられなかった。そう確信しています。命を繋いでくださったドクターへの感謝は、言葉では到底言い尽くせません。その時のドクターへの深い感謝から、日本に戻ったら今度は自分が感謝される側になりたい、生殖医療を提供する側になりたいと強く思ったんです。

ー ご自身の“感謝”が、事業への大きな原動力になっているのですね。

西村社長:その思いが確信に変わったのが、山口県で産婦人科病院の経営を引き継いだ時のことでした。たまたまM&Aの案件として紹介され、縁あって我々が経営することになりました。ある日、その病院の新生児室を覗いたら、まだ生まれて24時間も経っていない赤ちゃんが6人も並んでいたのです。半世紀以上生きてきた僕の目の前で、6つの新しい人生がスタートしている。その子たちの未来のポテンシャルはとてつもないなと、心の底から感動してしまって。

 その瞬間、アメリカで感じた個人的な深い感謝と、この場所で感じた社会的な“感動”が、自分の中で結びついて、命が生まれる前段階から関わっていきたいなと、強く思い、婦人科医療に参入しました。

ー 西村社長の事業の根幹にあるのは、利益や戦略ではなく、極めて人間的な「感謝」と「感動」という初期衝動なのですね。だからこそ、多くの人の心を動かすのかもしれません。

「教育は不要、採用が全て」――本質を射抜く人材論

ー ご自宅での入社式など、独自の組織作りが常に注目されていますが、そうした成功に至るまでにはきっと様々な試行錯誤があったかと思います。そんな中でこれまで「これは失敗だった」と感じる人材育成や、ご自身のコミュニケーションでの反省点があれば教えていただけますか?

西村社長:会社を設立して30年になりますが、30代後半までは「教育さえすれば人は育つ」と信じていました。10人いたら10人に均一な教育コストをかけていたのです。でも経験を積むうちに、今は「教育無用論者」です。本当にいい人材を採用してしまえば、教育なんてしなくても勝手にセルフエデュケートして育っていくことに気づきました。10人に10万円ずつ使うより、見込んだ一人に100万円かけた方がいい。だから、教育よりも採用が全てだと考えています。

ー では、その「いい人材」をどのように見極めていますか?

西村社長:面接で、私たちがやっている仕事の社会的意義や、人の命を生み出すことの尊さ、あるいは私個人の感謝のエピソードなどを話した時の「反応」で見極めます。私はこれを「感謝の感受性」と呼んでいるのですが、この感受性が高い人は、人にしてもらったことの何倍も周囲に返そうという思考を持つ人が多いからです。感動的な話をした時に、その人の目の輝きや前のめり感に明らかな差が出てくるので、それで分かります。

ー スキルや経歴ではなく、「感謝の感受性」という人間性の根幹を見ているのですね。それこそが、強い組織を作る上で最も重要なことなのだと感じました。

西村社長:40歳くらいまでは幹部層に対して高額な金銭的インセンティブを用意していましたが、結局お金をインセンティブにしても、いい結果には繋がりませんでした。それよりも、自分たちの仕事の社会的意義をしっかり理解してくれる人を採用しないとダメだと気づきました。

 今はむしろ「うちに来てもそんなに稼げるわけじゃないよ」と少し誇張して言うくらいの方が、結果的に会社は大きくなります。お金は短期的なカンフル剤にはなりますが、普遍的な動機にはなり得ないのです。

西村誠司氏(C)モデルプレス
西村誠司氏(C)モデルプレス
ー ありがとうございました。

「勝てば官軍」という厳しい哲学と、「感謝と感動」という温かい初期衝動。一見、相反するように見える二つの要素が、西村社長の中で共存し、唯一無二の推進力となっている。その人間的な深さに、多くの人が惹きつけられるのだろう。

まとめ

壮絶な幼少期の経験から生まれた「勝たなければならない」という強烈なハングリー精神。そして、誰にも頼らず自らの力で道を切り拓いてきた経験から生まれた「起業家」としての揺るぎない矜持。前編では、異端の経営者・西村誠司氏の人間性の根幹をなす哲学が、いかにして形成されたのかが明らかになった。

彼の挑戦は、なぜ数ある選択肢の中から「婦人科医療」という舞台へ向かったのか。その背景には、極めて個人的で、純粋な“感謝”と“感動”があった。後編では、この強い動機を胸に、彼が未知の領域をどう攻略し、社会に革命を起こしたのか。その具体的な戦術と、その先に見据える未来像に迫る。(modelpress編集部)

西村誠司(にしむら・せいじ)プロフィール

1970年生まれ、愛知県出身。エクスコムグローバル株式会社・代表取締役社長。1995年に同社を設立し、海外用Wi-Fiルーターレンタルサービス「イモトのWiFi」で事業を急成長させる。2019年には「にしたんクリニック」を開院し、PCR検査サービスや不妊治療事業に参入。旧来の常識を覆すビジネスモデルで常に注目を集める。
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