「アンメット」高評価の理由5つ 手術シーン・日記に隠された演出…キャスト自ら出演交渉からオーディション発案まで
2024.04.29 20:10
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女優の杉咲花が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系月10ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(毎週月曜よる10時~)。第1話放送後、X(旧Twitter)上でタイトルが世界トレンド1位を獲得するなど大きな盛り上がりを見せた本作は、ドラマファンをはじめ幅広い層にリーチし高い評価を得ている。ここでは同作が視聴者に刺さる理由を紐解く。
目次
杉咲花主演「アンメット ある脳外科医の日記」
原作は、講談社「モーニング」で連載中の「アンメット-ある脳外科医の日記-」(原作:子鹿ゆずる/漫画:大槻閑人)。事故によって記憶障害という重い後遺症を持つことになった主人公・川内ミヤビ(杉咲)が、目の前にいる患者を全力で救い、自分自身も再生していく医療ヒューマンドラマだ。キャストやストーリーはさることながら、同作の大きな強みとして、キャストが演出にダイレクトに関わっている点が挙げられる。ここからはキャスト陣のこだわりを中心にピックアップする。
1.原作と異なる主人公
まず前提として、原作漫画における主人公は、アメリカの大学病院から赴任してきた脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)だ。しかし、同ドラマではあえてミヤビを主人公としてストーリーを展開。記憶障害を題材にする中で、どうしてもその部分に目を向けてしまいがちだが、ここでは、ミヤビの記憶障害にフォーカスが当たるばかりではなく、丘陵セントラル病院で1人の脳外科医として働いている点に重きが置かれており、自身だけではなく患者の人生とも向き合う姿が描かれている。この設定について、元脳外科医の原作者・小鹿ゆずる氏は、同局のドラマプロデューサー・米田孝氏との対談で「僕の中ではミヤビこそが、この作品の中でいちばんの人格者。表立ってはいないけれど、自然と周囲の尊敬を集めるような人物に描いてきたつもりです。ただ、女性の心の内を描くとなると難しくて、正直、思うように書けなかった部分も。そんなときに、関西テレビさんから『ミヤビを主人公にしてドラマ化したい』とお話をいただいたんです。実はドラマ化のオファーはほかにも数社あったのですが、ミヤビを主人公にと提案してくれたのはカンテレさんだけ。それはおもしろそうだとワクワクしましたし、主人公ともなれば、僕が描きたかったミヤビをしっかり描いてもらえるのではないかと思いました」とコメント。原作とは異なる設定だが、このアイデアこそがミヤビの胸の内をより細やかに映し出し、彼女の魅力を引き出すきっかけとなったのであろう。
2.主演・杉咲花が若葉竜也に直接オファー
ここから本作を語るうえで、杉咲をはじめとする実力派揃いのキャスト布陣は切っても切り離せない。そんな中でも、初回で強い存在感を残し一際ネット上で注目を集めたのが、若葉の存在だ。若葉が本格的地上波民放連続ドラマに出演することはほとんどなく、今回の出演は“非常にレア”とも言える。そんな彼が、同作に出演したのは主演・杉咲の後押しがあったという。杉咲とは、NHK連続テレビ小説「おちょやん」(2020年~2021年)、映画「市子」(2023年)など多数の共演経験があり、制作記者会見では「杉咲さんから電話がかかってきて『やるよね?』ってプレッシャーをかけられたので、『じゃあやるか』って」と若葉が明かすと、杉咲も「役にぴったりだと思った。若葉さんしかいないと思ったので気付いたら電話していた」と電話で直接出演をオファーしたという裏話を語っていた。
すでに信頼関係が構築されている2人だからこそ生まれる化学反応、そして彼の“静”の演技で魅せる強さと温もりは、回を重ねるごとにさらに深みを増していくことだろう。また、「おちょやん」では杉咲演じる千代の初恋の人・小暮さん役を、「市子」では恋人役を演じていた若葉。そんな2人の同作での関係性に注目が集まっている。
3.杉咲花、スタッフと8時間のディスカッション
そして杉咲はキャストという垣根を越え、クランクイン前の2023年9月頃からスタッフ陣と全体の構成から脚本のことまで約8時間にわたる濃密な話し合いを重ねていたことが、本作を手掛けるYuki Saito監督との対談で明らかに。杉咲は「今も、現場ではほとんどのシーンで議論が生まれていて、制作サイドと俳優部といった垣根を越えたところでそれぞれの意見を共有して、より物語を煮詰めていく時間が日常的に流れています。それができるのも、去年から皆さんと積み上げてきた関係性があってこそだと思いますし、なによりこの作品に関わる人間の熱量が並々ならないから」と語っていた。
4.サッカー部2人のオーディションは若葉竜也の発案だった
また、それぞれのストーリーの魅力を倍増させるゲスト陣にも注目したい。第2話では、ミヤビが試合中に脳障害で倒れ重い後遺症を背負うことになってしまうサッカー強豪校のエース・鎌田亮介(島村龍乃介)の主治医となり、懸命に“つらい現実”に直面する彼に寄り添っていく姿が描かれた。「左半側無視」という体の左側が思うように動かなくなる難役を演じきった島村だが、本作への出演はオーディションで勝ち獲ったとのこと。オーディションでは演技力だけでなく、サッカー経験者であることが必須条件であったそうだ。
そしてこのオーディションは若葉の発案で決定。監督は「なんでドラマはオーディション少ないんすか?若い役者にチャンスやって下さい」という若葉の提言から島村、その親友役の黒田昊夢、チームメイトをオーディションで選抜したことを告白。
黒田は「若葉竜也さんの発案でオーディションが決まったんだよ と杉咲花さんに教えて頂き、懐の深さに感動しましたそれを形にしてくださったsaito監督と米田さんには感謝でいっぱいです。常にチャンスを手にする心構えと自信は持ち続けなければと思いました」と感謝を伝えている。若手にも輝けるチャンスを作るとともに新たなスターを発掘する若葉の行動に、日本の映像作品に対する愛と敬意がひしひしと感じられる。
5.“杉咲花のこだわりが凄まじい”3つの撮影裏話
最後に、杉咲の本作に懸ける熱量が伝わる撮影裏話を3つ紹介したい。まずは、ミヤビが毎朝最初に読む日記も杉咲の手書きであること。「日記は、朝目覚めたミヤビがいちばん最初に手に取るもので、読み返すところから1日が始まり、ミヤビにとっては命綱のような存在なのではないかと思うんです。だからこそ、彼女が過ごしてきた時間をよりそばに感じられるように、自分で書かせてもらいたいですとお願いしました」と話すと、Saito監督は「日記は作品の副題にもあるくらいのキーアイテムですし、『書く作業だけで相当な負担になるよ』とは伝えたんですけど、『それでも気持ちが入りやすいから』とのことだったので、お言葉に甘えてお願いしました」とコメント。通常は、一部本人が書いたとしても残りは助監督や美術部のスタッフが書くが、今回はすべて杉咲本人の字で統一されていることが、結果としてどのシーンを切り取っても違和感なく映し出すことを可能とし、よりミヤビの日常が近くに感じられる。また、手術の手元シーンを杉咲自ら演じている点もリアリティを引き出す大きなポイントに。脳外科の手術の難しさを事前に聞いていたSaito監督は当初、手元はカットを分けた別撮りを予定していたそうだが、「挑戦してから決めてほしい」と訴えた杉咲。2023年10月頃に監修の医師に実技も含めた医療の基礎的な知識を学び、毎日練習用のキットで練習を続けていたことを明かした。「所作にはその人の暮らしが映るものだと思いますし、やっぱり観てくださる方々に『ここまでやるのか』と思ってもらいたいんです。いつ自分の手元が映っても大丈夫なレベルまで上達したい気持ちで、今も取り組んでいます」と強い覚悟をあらわにした。
さらに、第2話で亮介がミヤビとパス交換するシーンは「杉咲花座長の提言もあり、高架下でのパス交換〜亮介の涙まで、2カメ30分長回しの1本勝負で撮りました。まるでドキュメンタリーのように、その息遣いや泥の汚れ、2人の心情をリアルに伝えたかったからです。そこに向かってチームが一つとなり、撮れた時のクルーの顔々、一生忘れません」と杉咲の提案が撮影に生かされていることを監督が明かしている。こうした撮影面での細やかなこだわりが今後もあらゆる場面で見つかっていくだろう。
ここでは語りきれなかったこだわりは多数あるが、俳優陣、スタッフ陣一同がそれぞれの垣根を越え、同じ熱量とパワーを注いでいるからこそ、多くの人に刺さる作品となっているのだろう。ストーリーはもちろん、その裏側を知ることでまた新たな視点でドラマを楽しんでみては?(modelpress編集部)
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