「妻の趣味は理解できないんで」と私の先生に笑った夫→2週間後、教室のない日の工房で見た夫の背中
作品展で夫が口にした言葉
陶芸教室に通い始めて、もう6年になります。先生は60代の女性で、私が最初に作ったいびつな湯のみを、今も棚に飾ってくれている人です。
「ご主人も一度、土に触ってみませんか」
先生がにこやかに声をかけると、夫は頭をかきながら笑いました。
「妻の趣味は理解できないんで」
先生は「あら、残念」と笑って流してくれました。私は手にしていたパンフレットを、丸めたり伸ばしたりするばかりでした。
展示を見て回る間も、夫はスマホの画面ばかり見ていたのです。帰り道、器の感想は1つも出てきませんでした。
休みの日に見かけた後ろ姿
それから2週間ほどたった、休みの日のことです。焼き上がった皿を受け取りに、教室のない日の工房へ向かいました。
夫は「ちょっと出かける」と言って、私より先に家を出ていました。行き先は聞いていません。
工房のガラス戸に手をかけたところで、奥に見覚えのある紺色の上着が目に入りました。
夫でした。両手で布の包みを抱え、作業台の前で先生と向き合っています。ガラス戸から手を離したそのとき、夫の背中がゆっくりと前に傾いていきました。
ガラス越しに見えた深いお辞儀
夫は、先生に向かって深く頭を下げていました。腰から折れるようなお辞儀で、なかなか顔を上げません。
先生は包みを受け取ると、夫の肩に軽く手を添えました。2人はそのまま作業台に並んで座り、何かを広げ始めます。
私は戸を開けずに、そっとその場を離れました。理解できないと言った人が、なぜここにいるのか。分からないまま中に入る気にはなれなかったのです。
駅前のカフェで時間をつぶしてから戻ると、夫の姿はもうありませんでした。先生は皿を包みながら「ご主人のことは、ご主人から聞いてあげてね」とだけ言いました。
そして...
家に帰ると、夫はソファでテレビを見ていました。
「どこ行ってたの?」と聞くと、夫は「ちょっと用事」とだけ答えます。
リモコンを持つ夫の指先には、黒っぽい汚れが残っていました。洗っても落ちなかったような、細い線の汚れです。
私の趣味を理解できないと笑っていた夫は、あの工房で何を頼み、何を始めたのでしょうか。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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