彼女を遠ざけたのは、1週間かけて書き直した俺の長い謝罪文でした
会議室で言われた言葉を、そのまま
その日は、提案資料の直しに1日追われていました。会議の終わりに、上司は資料をめくりながら「お前の資料、長いし重いんだよ」と言いました。机の上では、伏せたスマホが何度も震えていました。
読み進めた彼女の文面は、いつもと変わらないものでした。パスタの写真、「今度の映画、何時の回がいい?」、上着の心配。どれにも返せていない自分が、画面の下に積み重なっていくように思えたのです。
「お前のメッセージ、重いんだけど」
送ってから、「お前」と打ったことに気づきました。彼女をそう呼んだことは一度もありません。上司の口調が、そのまま指に残っていたのだと思います。
同じスタンプしか返ってこない1週間
駅へ歩いている間に届いたのは、おじぎをしているスタンプでした。その後には何も続きません。
次の日、何もなかったように「おつかれ」と送れば、いつもの返事が来る気がしていました。届いたのは、同じスタンプです。「今日も会議だった」にも、同じスタンプが返ってきました。
謝ろうとするたびに、書くことが増えていきました。忙しかったという説明は何度も書いて、何度も短くしています。映画の時間も一度は書いたものの、答えたら何もなかったことにするようで、最後に消しました。そうしているうちに、彼女とのトークにはおじぎのスタンプだけが並んでいきました。
さかのぼったトークの一番下に
1週間がたって、書きためた文面を一晩かけて直し、窓の外が白みはじめたころに送信ボタンを押しました。書き出しには「ずっと謝れなくてごめん。長くなるけど読んでほしい」と打ち、途中には「重いって書いたけど、その重さに助けられてたのは俺のほうだった」とも書いています。
少しうとうとしてスマホを見ると、返事が届いていました。
「ちゃんと読んだよ。少し時間ちょうだい」
読み返すうちに、トークを上へさかのぼっていました。おじぎのスタンプが並ぶ1週間の前には、数行ずつの彼女の吹き出しと、「了解」「おつかれ」ばかりの俺の吹き出し。そしてスタンプの列の一番下に、画面を埋めるほどの長文がありました。
重いと言った相手に、一番長いものを送っていたのは俺でした。謝りたい気持ちを全部読ませることで、自分だけが楽になろうとしていたのかもしれません。
そして...
「わかった。待ってる」
それだけ打って、送信しました。付け足したかった言葉は、送信ボタンの手前で全部消してしまいました。
それから、送る前に自分の文面を一度だけ読み返すようにしています。彼女とのトークは、まだ俺の送ったメッセージで止まったままです。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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