「お下がりで十分よね」と紙袋を押しつけるママ友に、中身を広げた私が園の玄関で返した言葉
断っても届く紙袋
最初に声をかけられたのは、息子が進級して間もないころでした。
「お下がりせっかくならあげるわよ」
「うちは足りてるから大丈夫です」
そう返しても、彼女は聞こえなかったかのように紙袋を差し出しました。それからは、お迎えで顔を合わせるたびに紙袋が増えていきました。
「お下がりで十分よね」
渡すときは、決まってこの言葉です。息子の服は季節ごとにそろえていて、困ったことは一度もありません。それでも玄関先で突き返すわけにもいかず、受け取っては持ち帰る日々が続きました。
広げた服と息子の顔
息子が寝たあと、リビングの床に紙袋の中身を広げました。トレーナーは袖口まで毛玉だらけで、ズボンの膝には泥の跡。顔を近づけると、しまい込んだ押し入れのようなにおいがしました。
前回の紙袋から出したシャツを着せようとしたとき、息子は袖に腕を通さずに私を見上げました。
「これ、着なきゃだめ?」
その顔を思い出しながら、床の服を1枚ずつたたみ直しました。
紙袋を渡された数日後、彼女からこう頼まれたこともあります。
「いつもお下がりあげてるんだし、いいでしょ」
自分の息子のお迎えを代わってほしい、という話でした。断りきれずに引き受けましたが、望んでもいない親切のお返しを求められたようで、どこか釈然としませんでした。たたんだ服を紙袋に戻し、玄関の靴箱の横に置きました。次に渡されたら、その場で断る。そう決めていました。
園の玄関で伝えたこと
次のお迎えには、靴箱の横の紙袋を提げて家を出ました。園の玄関に着くと、彼女が新しい紙袋を手に近づいてきました。
「お下がりで十分よね」
差し出された紙袋には手を伸ばさず、持ってきた紙袋を彼女のほうへ向けました。
「もう、お下がりは受け取れません。毛玉や汚れがあって、息子も着たがらないので」
彼女は差し出していた紙袋を少し引っこめました。
「えっ、せっかくあげてるのに」
「せっかくでも、いらないものはいりません。この前の分も返します」
「わかった」
彼女は2つの紙袋を提げて、息子さんのほうへ戻っていきました。息子と手をつないで園を出ると、空いた右手がやけに軽く感じられました。
そして...
それ以来、紙袋を渡されることはなくなりました。お迎えの頼みごとも、あの日が最後でした。
息子のクローゼットには、本人が選んだ恐竜柄のトレーナーが並んでいます。
ただ、1つだけ分からないままです。彼女は自分が渡していた服を、一度でも広げて見たのでしょうか。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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