息子の妻が笑って言った「私はもうこっちの家の人間ですから」に、昔の自分が重なった日
息子の妻の背中に見えた、昔の自分
息子の妻は、いつも約束より早く来て台所に立ちます。最後の皿を拭き終えるまで、決して座ろうとしません。その間、息子は居間に座ったまま。嫁いだ頃の私と夫を、そのまま見ているようでした。
ここ数回は、あの子がスポンジを手に取るたびに皿を取り上げてきました。
「いいから座ってて」
ほかの言い方が見つからず、背中を向けて洗い物を続けるしかありません。2人が来る数日前には、息子に電話をかけ、妻ばかり台所に立たせて自分は座っているだけなのかと叱ってもいました。
その日の食卓で、煮物を取り分けながら聞いてみました。
「お正月は、たまにはご実家に帰ったら?」
「私はもうこっちの家の人間ですから」
笑顔で返ってきた言葉に、菜箸を置きました。姑から何度も聞かされた言葉と、ほとんど同じだったからです。隣で黙って味噌汁をすすっている息子を、じっと見ていました。
いちばん強い言い方を選んだ理由
「もうこっちの家の人間なんだから」
結婚した当初、姑は事あるごとにそう言いました。お盆も正月も台所に立ち続け、実家に帰れたのは嫁いで5年経ってから。帰っていいと言ってくれる人は、家の中に1人もいませんでした。
息子が醤油を買いに出たあと、その日だけは皿を取り上げず、隣で布巾を動かしながら言いました。
「息子とは別れてほしいの」
泡のついた皿を持ったまま、あの子が言いました。
「私、何か至らないことがありましたか」
「あなたのためよ。考えておいてね」
帰っていいと言うだけでは、きっと笑って流される。自分の息子を悪者にしてでも、あの子が擦り減っていくのを見ているよりはいい。そう考えて選んだ言葉でしたが、説明を足す前に玄関の戸が開き、息子が戻ってきました。
言い足りないまま見送った2人
2人が帰ったあと、布巾を干しながら、台所での場面を何度も思い返しました。あれでは、嫌われていると受け取られても仕方がありません。息子に電話をして説明を頼もうかと考え、スマホを手に取っては棚へ戻しました。
息子には高校生の頃、一度だけ昔の話をしたことがあります。電話で叱ったことと一緒に、帰り道で何か伝えてくれているかもしれない。そう願うことしかできませんでした。
そして...
しばらくして、息子の妻からメッセージが届きました。
「お正月は、先に実家へ顔を出してから伺ってもいいですか」
画面を開いたまま、すぐに返信を打ちました。
「もちろんよ。ゆっくりしてらっしゃい」
送ったあとで、台所でのことを説明するメッセージを足そうとして、やめました。あの言葉がどう届いたのか、あの子には確かめないまま。
カレンダーの年末の欄に書いておいた息子夫婦の来る日を、消しゴムで消して、2日後ろへ書き直しました。
(60代女性・パート)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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