「もしかして、彼氏?」と上司に聞かれた日。隣の彼が返したのは「どうも」の一言だけ
後ろから呼ばれた名前
「あれ?」
振り返ると、エコバッグを肩にかけた課長が立っていました。同じ部署の上司で、誰にでも気さくに話しかける40代の女性です。会社の外で顔を合わせるのは、これが初めてでした。
「あれ、こんなところで会うなんて」
課長の目が、パーカー姿でかごを持つ彼のほうへ移ります。
「もしかして、彼氏?」
冗談めかした、軽い口調。悪気がないのは分かっています。答えは決まっているのに、口から出てきたのは「あ、えっと……」だけでした。助け舟を求めて隣を見ると、彼は小さく頭を下げて言いました。
「どうも」
続く言葉を待ちましたが、それで終わりでした。
「どうも」のあとに続かなかった言葉
課長は少し間を置いてから笑いました。
「ごめんごめん、プライベートだよね。また会社でね」
手を振って離れていく背中を見送りながら、さっきの場面を何度も頭の中で巻き戻していました。「彼氏です」と言うのは、ほんの数秒で済むはずです。私が言いよどんだのなら、代わりに答えてくれてもよかったのに。
会計を終えると、彼は「袋、2つとも持つよ」と両手に提げて歩き出しました。いつもなら軽いほうを私に渡してくれる人です。話をそらされたように思えて、並んで歩く間も返事はどんどん短くなっていきました。
付き合って2年、お互いの友人にも何度も会ってきました。それなのに、私の職場の人の前では彼氏だと言うことすらしない。もしかすると、人に紹介するほどの関係だと思われていないのかもしれない。そう考えるたびに、袋を提げた彼の手元ばかり見ていました。
黙ったままで終わらせない
部屋に戻っても、さっきのことは聞けないままでした。聞いて「別に」と返されたら、引っかかりがもっと大きくなる気がしたからです。
代わりに考えたのは、課長への答えでした。彼が言わなかったからといって、私の返事まであいまいにする理由はありません。あの「あ、えっと……」を、自分の返事のまま終わらせたくありませんでした。
そして...
休み明け、給湯室で課長と顔を合わせました。
「この前の、彼氏です。ちゃんと答えられなくてすみません」
課長は「やっぱり。感じのいい人だったね」と笑ってくれました。席に戻ってから、彼にメッセージを送りました。
「課長に、彼氏だって言ったよ」
返事はすぐに届きました。「よかった」
あの日は黙っていた人が、どうして「よかった」と返すのか。画面を開いたまま、しばらくその一言を眺めていました。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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