教室で私の絵にだけ「描き直してきてください」が続き、才能がないのだと思った日
先生が足を止める席
駅前のビルの3階にある水彩画教室に、私は月に2回通っています。生徒は10人ほどで、ほとんどが私より年上の方でした。先生は70代の女性で、長机の間をゆっくり回りながら、1人ずつ絵をのぞき込んでいきます。
隣の席の方の紙の前では「いいですね。このまま仕上げましょう」と声を掛け、その次の席でも同じようにうなずいていました。私の番になると、先生は身をかがめて空の部分を指さしました。
「ここ、描き直してきてください」
この2年で、私が言われた言葉はほとんどそれだけです。持っていった八百屋の店先の絵は、これで4度目の描き直しでした。
隣の席の笑い声
休憩のとき、隣の方が自分の絵を見せながら「先生に初めてほめられた」と笑っていました。入って3か月の人でした。
私は水入れの水を替えようと立ち上がり、自分の紙を見下ろしました。空の色は、前回言われたとおりに薄くしたつもりです。何が違うのか、先生は一度も説明してくれませんでした。
帰りの電車で、教室の申込書に書いた、趣味として長く続けたいという自分の字を思い出しました。長く続けるほど、直される回数だけが増えていく気がしていました。
洗い場で聞いたこと
ある回の終わり、ほかの生徒が帰ったあとも私は洗い場で筆をすすいでいました。先生が隣に立って、自分のパレットを水につけました。聞くなら今しかないと思って、私は蛇口を止めました。
「私、向いてないんでしょうか」
先生は何も言わずパレットを洗う手も止めません。しばらく経って、先生は私より早く洗い場を離れました。
「向いていない人に、描き直せとは言いません」
それだけ言って、先生は先に教室を出ていきました。私は呆然と洗い場の前に立ったまま、色がにじみ出続けている筆を眺めました。ほめられたわけではありません。それでも、その日出すつもりで鞄に入れていた退会の用紙を、私は出しませんでした。
そして...
次の回、先生は私の絵の前で足を止め、いつもより長く紙を見ていました。
「秋の展示に、1枚出してみませんか」
私は返事の前に、空の部分を指でなぞりました。4度描き直したあの八百屋の絵を家の壁に貼ったまま、今は新しい紙を広げています。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
関連記事
「コラム」カテゴリーの最新記事
-
【要注意】女子ウケ抜群なのに男性から選ばれない女性、原因はその"気遣い"にあったハウコレ -
息子に【鍋で沸騰させた湯】を浴びせた義母!?しかし搬送先で⇒「え…?」義母の血の気が一気に引いたワケ愛カツ -
私の夫を奪った妹。しかし20年後⇒姉妹「ありがと♡」夫「…は?」青ざめたのは“夫だけ”だったワケ愛カツ -
「うちの無能妻です~(笑)」同僚や上司の前で、罵る夫!?しかし⇒同僚「お前知らないのか…?」妻の正体に、夫「は…?」Grapps -
【星座別】2026年10月、短い時間でも会いに来てもらえる女性ランキング<第4位〜第6位>ハウコレ -
【星座別】2026年10月上旬、待っていた彼から嬉しい連絡が届く女性ランキング<第4位〜第6位>ハウコレ -
【星座別】「気づいたら好きだった」じわじわ惚れさせる女性ランキング<最下位~第10位>ハウコレ -
「あの子より君がいい」と言わせた女性がこっそりやっていたライバル攻略法ハウコレ -
陣痛に苦しむ妻「もしもし?運転を…」だが夫「なんで今日なの?」⇒約束を破り同僚と飲みに行っていた夫の話Grapps