10年前に「接客は向いてない」と言い切った私→研修の講師は、辞めたあの子でした
私は「遅い人」を「向いていない人」にしていました
10年前、私は駅ビルの雑貨店で店長をしていました。
その店では、限られた人数で売り場を回していました。レジに列を作らないこと、包装を早く終えること、混んできたら会話を切り上げることを、私は何より重く見ていました。
その中に、接客に時間のかかるスタッフがいました。
お客さまの話をよく聞きます。商品を迷っている人がいれば、納得するまで付き合います。
そのぶん、包装の途中で手が止まることもありました。
ある日、レジに列ができました。
閉店後、私はそのスタッフをバックヤードへ呼びました。
「あなたに接客は向いてない」
そう言いました。
当時の私は、話し込むことも、包装の手が止まることも、列を作ることも、すべてその人の適性の問題だと考えていました。
返ってきたのは、
「わかりました」
だけでした。
その後、彼女は契約を更新せず、店を辞めました。
10年後、教わる側になりました
私もその店を離れ、別の売り場で働くようになりました。
年齢を重ねるうちに、自分より若い店長の下で働くことも増えました。
会社から接客研修へ参加するよう言われ、指定された会場へ行った日のことです。
講師として前に立った人を見て、すぐに分かりました。
10年前に辞めた、あのスタッフでした。
説明は分かりやすく、売り場で起こりそうな場面を次々と例に出していました。
その中に、
「お客さまとの会話を切らずに、手を止めない方法」
という話がありました。
会話をしながら包装を進める。列が伸びそうなら早めに応援を呼ぶ。お客さまの話を聞くことと、売り場を回すことを分けて考える。
私は資料を見ながら、10年前の売り場を思い出しました。
あの子ができていなかったことは、教えて直せることだったのかもしれない。
そのとき初めて、私は「仕事が遅い」と「接客に向いていない」を同じものとして扱っていたことに気づきました。
「今は、私が間違っていたと思っています」
研修の最後に質問用紙が配られました。
私は、
「仕事が遅い人に、向いていないと伝えることについてどう考えますか」
と書きました。
名前の欄には、自分の名字を書きました。
読まれれば誰が書いたか分かります。
4つに折って出したのは、最後まで迷っていたからです。
廊下で講師だった彼女に呼び止められました。
「あの日、本当に私が接客に向いてないと思ってたんですか」
私は、
「思っていました」
と答えました。
そこだけは、違う話にしたくありませんでした。
当時の私は、本当にそう判断していたからです。
続けて聞かれました。
「今もですか」
私は、
「今は、私が間違っていたと思っています」
と答えました。
謝れば、その場で何かを返してもらおうとしているような気がしました。
だから謝らなかった、というのも私の都合です。
彼女も何も返さず、そのまま会話は終わりました。
そして...
次の出勤日、若いスタッフが1人のお客さまと長く話し、レジに列ができました。
10年前なら、
「そんなに時間をかけていたら向いてないよ」
と言っていたかもしれません。
その日は、
「話を聞くのはそのままでいい。でも3人並んだら応援を呼んで。包装の手も止めないようにしよう」
と伝えました。
相手は、
「分かりました」
と答えました。
同じ返事でも、10年前とは違いました。
あのとき私が言った言葉は、今更取り消せません。
彼女が接客を続けたから、私は自分の評価が間違っていたとわかりました。
もし辞めたままだったとしても、私が間違っていたことには変わりません。
今できるのは、次の誰かに同じ決めつけを渡さないことだけです。
(50代女性・販売員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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