10年前に「あなたに接客は向いてない」と言われ店を辞めた私→研修の最後列に元店長がいました
レジに列ができた日の、店の奥で
20代のはじめ、私は駅ビルの雑貨店で働いていました。
3年目のある日、お客さまとの会話を続けるうちに包装の手が何度も止まり、気づけばレジの前に列ができていました。
閉店後、店長にバックヤードへ呼ばれました。
棚の段ボールを片づけながら、店長は言いました。
「あなたに接客は向いてない」
理由を聞けば、まだ何か言えると思いました。
けれど店長から続いたのは、話し込む、手が止まる、列を作る。それでは売り場を任せられない、という説明でした。
机の上には、契約更新についての書類が置かれていました。
私が返せたのは、
「わかりました」
だけです。
その後、契約は更新せず、店を辞めました。
名札を返した日のことは、そのあと別の売り場に立っても忘れませんでした。
10年後、教える側になりました
私は別の会社の販売職に入りました。
最初に直したのは、包装と会計の速さです。話している途中でも手を止めない。列が伸びそうなら早めに応援を呼ぶ。売り場全体を見る癖もつけました。
でも、お客さまと話すこと自体はやめませんでした。
何度か来てくれる人の顔を覚え、以前買ったものを確認しながら商品を提案する。そうしているうちに、新人へ接客を教える役を任されるようになりました。
今は社外向けの接客研修にも講師として立っています。
その日の会場で受講者の名札を確認していたとき、最後列に見覚えのある名字がありました。
顔を上げると、10年前の店長が座っていました。
目が合いました。
相手は小さく会釈しました。
私も会釈を返して、そのまま研修を始めました。
折られた質問用紙に、名字がありました
研修の最後に質問用紙を配りました。名前を書く欄は任意です。
控室で回収した束を確認すると、4つに折られた紙が1枚ありました。
開くと、名前の欄には元店長の名字が書かれていました。
質問は、
「仕事が遅い人に、向いていないと伝えることについてどう考えますか」
という内容でした。
私はその紙を持って廊下へ出ました。
まだ帰っていなかった元店長を呼び止めます。
「あの日、本当に私が接客に向いてないと思ってたんですか」
相手はすぐには答えませんでした。
やがて、
「思っていました」
と言いました。
言い訳はありませんでした。
私はもう1つ聞きました。
「今もですか」
元店長は私を見て、
「今は、私が間違っていたと思っています」
と答えました。
それでも、「ごめんなさい」とは言いませんでした。
私も、許すとは言いませんでした。
そして...
その答えを聞いても、10年前の自分が報われたとは思いませんでした。
あの言葉を信じて接客そのものを辞めていた可能性もあります。たまたま私は、別の売り場でもう一度やってみただけです。
次の研修から、資料に項目を1つ増やしました。
「向いていない」と人そのものを評価するのではなく、何ができていないのか、どう変えればいいのかを具体的に伝える。
私が遅かったのは事実です。
列を作ったのも事実です。
でも、それと「接客に向いていない」は同じではありませんでした。
10年前に欲しかったのは、励ましでも優しい言葉でもなく、その区別だったのだと思っています。
(30代女性・接客研修講師)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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