「これ、私が作りました」が言えない…編み物を忘れただけなのにSNSでバズった結果
母に渡すはずだったもの
週に1度、休みの日に通うカフェがあります。入口から離れた角の席で編み物をするのが楽しみでした。作っていたのは手のひらほどの花籠で、母の誕生日に渡すつもりでした。完成まであと少しという雨の日、私は花籠を袋に入れ、椅子の横に置いたまま店を出ました。気づいたのは、家で鞄を開けたときです。店へ連絡する前に公式SNSを開くと、そこに自分の花籠が写っていました。
「店内でお預かりした忘れ物です。お心当たりのある方はスタッフまでお声がけください」
それだけなら、ありがたいと思ったはずです。ところが投稿には、作った人はすごい、売ってほしい、という言葉が並んでいました。私の知らないところで、ただの忘れ物ではなくなっていました。
取りに行ったのに、言えませんでした
カフェへ足を運んだのは、次の休みです。レジの横に花籠が置かれていました。注文を待つ女性が、店員に声をかけました。
「SNSで見たやつ、これですよね?」
「そうです。まだ持ち主の方がいらしていなくて」
女性が携帯を取り出したので、私は列から離れて席に座りました。自分のものですと言えば終わる話です。けれどここで名乗れば、その女性にも、作った人として知られます。レジの前から人は途切れませんでした。その日は花籠の前を通らずに帰りました。
見せたのは、制作途中の写真です
数日後、花びらがよく見える写真が、まだ持ち主を待っているという言葉とともに流れてきました。花籠を見るために店へ行ったという投稿まで見かけました。母の誕生日が近づいています。私は開店してすぐ店へ向かいました。客はまだ1人だけです。レジにいた店員へ、携帯に残っていた制作途中の写真を見せました。
「これ、私が忘れたものです」
店員は写真と花籠を見比べ、袋に戻して渡してくれました。
「お待ちしていました」
そのあとに続いたのは、謝罪の言葉です。
「落とし物を探すつもりで載せました。でも、反応が増えてから、店の投稿として見てしまっていました。申し訳ありません」
そして...
私も、言えずにいたことを伝えました。
「探してくれたことは、ありがたかったです。でも、作った人まで見世物みたいになるのは、ちょっと怖かったです」
店員はもう一度頭を下げました。花籠を大きく写した投稿が消えたのは、その日のうちです。母の誕生日には、予定どおり渡せました。今も私は、あの角の席で編み針を出しています。変わったのは、席を立つときに椅子の横まで確かめるようになったことです。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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