閉店間際のお客さまに叱られた私が、閉めた後の店で書いた1枚
「すみません」しか言えなかった日
手を止めて声の方を見ると、仕事帰りによく寄ってくださる、クリームパンのお客さまでした。名前も連絡先も知りません。
「営業時間くらい、守ってください」
その通りだと思いました。営業時間を決めているのは私で、それを破っているのも私です。けれど、空の棚を見せて事情を話すことはしませんでした。「すみません」とだけ言って頭を下げ、シャッターを最後まで下ろしました。内側で錠をかける音が、その日はいやに大きく聞こえました。
書けなかった紙
春に、長く店を手伝ってくれた人が辞めました。1人で焼ける量には限りがあり、数を絞った分、パンは早くになくなります。売り切れ次第閉める。そう貼り紙を出せば済む話でした。それでも私は書かずにいました。面倒くさかったというのが本心です。
営業時間を書き換えるでもなく、説明を出すでもなく、そのままにしていました。事情を知らないまま帰ったお客さまが、他にもいたはずです。私はその事を考えないようにしていました。
閉めた後の店で書いた文面
あの日、シャッターを下ろした後で、私は裏紙に文面を書きました。
「1人で焼いているため、パンがなくなり次第、店を閉めています。ご迷惑をおかけします」
何度か書き直し、翌日からシャッターに貼るようになりました。しばらくして、あのお客さまが開店に合わせて来てくださいました。会計のとき、「この間は、すみませんでした」と言われ、私は首を横に振りました。
「いえ。こちらこそ、書くのが遅くなりました」
叱られなければ、私はまだ書かずにいたと思います。
そして...
今も、棚が空いた日は、シャッターを下ろす前に今も売り切れた日は早く店を閉めます。ただ、シャッターを下ろす前に、貼り紙が見える位置にあるかを確認しています。
(60代男性・パン屋経営)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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