「営業時間くらい、守ってください」シャッター前でそう言った私が、後日読んだ貼り紙
半分下りたシャッターの前で
そこはクリームパンがおいしくて、仕事帰りに何度も寄っていた店でした。名前も連絡先も知らない、ただの客と店主です。
その日もいつものつもりで角を曲がると、店の明かりはもう落ちかけていて、店主が入口のシャッターに手をかけていました。掲示と違うではないか。頭の中で、その思いだけが膨らんでいきました。
「営業時間くらい、守ってください」
気づけば、口に出していました。店主は手を止めてこちらに向き直り、「すみません」とだけ言って頭を下げました。言い訳の1つもないことが、かえって私の苛立ちを押し上げました。
シャッターに貼られた1枚
数日後、同じ道で、シャッターはまた早くに下りていました。今度は文句より先に、目が1枚の紙に留まりました。
「1人で焼いているため、パンがなくなり次第、店を閉めています。ご迷惑をおかけします」
何度か読み返して、ようやく思い当たりました。そういえば、レジにも厨房にも、いつもあの店主しかいませんでした。棚のパンが早い時間に減っていた日も、確かにあった気がします。あの日、シャッターの向こうの棚は、空だったのかもしれません。
事情を聞かないまま、私は営業時間だけを見て強い言い方をしていました。帰り道、あの日の自分の言い方を何度も思い返していました。
開店に合わせて並んだ棚
次の休みの日、私は開店の時刻に合わせて店へ行きました。棚には焼きたてが隙間なく並び、奥からパンの膨らむ匂いがしていました。
クリームパンをいくつか選び、会計のときに「この間は、すみませんでした」と伝えました。店主は首を横に振り、「いえ。こちらこそ、書くのが遅くなりました」と答えました。それ以上の説明はお互いにしませんでしたが、その短いやりとりで十分でした。
営業時間を見て不満に思ったことと、事情を聞かず強い言い方をすることは別だったのだと思います。私は釣り銭と一緒に、温かい紙袋を受け取りました。
そして...
あれから、あの店で買うのは休みの日の開店直後と決めています。まとめて買ったクリームパンは、今もうちの冷凍庫に入っています。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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