靴を拾いに列を離れただけの私が、1年後、同じ行列であの人を見つけた日のこと
拾いに離れただけでした
駅前のパン屋の行列に、私は3歳の息子と並んでいました。息子が足をばたつかせた拍子に、靴が脱げて列の外へ。私は息子の手を引いて数歩離れ、靴を履かせて列へ戻りました。その途端、後ろの女性に言われたのです。「並ばないなら買うな」。周囲の目が集まる中、説明の言葉より先に頭を下げていました。「すみません」。それだけ言って、私は息子と最後尾へ下がりました。靴を拾っただけだと、どうしても言えなかったのです。
悪いのは全部あの人だと思うことにしました
その夜、私は夫に何度も彼女の話をしました。顔しか知らない相手を、子連れに冷たい人だと決めつけて、あの店にも行かなくなりました。息子が食パンをねだるたび、別の店のもので済ませました。あの人が悪い。そう思っている間は、断りもなく列へ戻った自分の紛らわしさを、見ずに済んだからです。責められた痛みと同じくらい、言い返せなかった自分への悔しさを、私は誰かのせいにしていました。
1年ぶりの列で
久しぶりに並んだ列の前方で、赤ちゃんをあやしながら列を離れる女性が見えました。戻る場所を失って、列の横で足を止めています。その横顔に見覚えがありました。迷いはありましたが、もし同じ場面に出会ったら先に声をかけようと、ずっと決めていたのです。「順番、ここで合ってますよ」。私の前を空けると、彼女は私に気づいて頭を下げました。「あの時は、ひどいことを言いました」。私は答えました。「私も、あの時は余裕がなかったんです」。そして、靴のことを初めて話しました。
そして...
家に帰ってから、息子と2人で食パンを分けて食べました。あの人を悪者にして店を避けた1年を、私はもう繰り返しません。言えなかった一言の代わりに、先に声をかける。それだけを決めて、私はまたあの列に並んでいます。
(30代女性・パート)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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