毎年書いていた母への手紙をAIに任せた俺、「母さんへ」の1語で止まった母
手紙を書く時間がなかった今年
実家を出てから、母とのやりとりは月に数回のチャットだけになりました。そんな母には変わった頼みがあって、帰省が近づくたびに「今年も手紙、書いてね」と言うのです。電話でも用は足りるのにと思いながら、俺は毎年、便箋を1枚だけ埋めてきました。
今年は仕事が立て込み、家に帰ってから手紙の内容を考える気になれませんでした。そこで頼ったのがAIです。母への感謝を伝える手紙、と入力すると、すぐに整った文章が表示されました。俺はそれを便箋に書き写し、封をして鞄に入れました。
字は俺のものだから、気づかれないだろうと思っていました。
居間で開いた封筒
帰省した日の居間で、母は封筒を受け取るとうれしそうに開きました。
「読み上げてもいい?」
そう聞かれて、俺はうなずきました。母は便箋を胸の高さで持ち、最初の言葉を読みました。
「母さんへ」
そこで止まりました。母の目は便箋に向いたままでしたが、その先を読みません。俺は何も言えず、母が続きを口にするのを待ちました。そのとき、ようやく気づきました。
呼んだことのない呼び方
俺は母を「かあちゃん」としか呼んだことがありません。便箋の最初に書かれているのは、これまで一度も使ったことのない「母さん」という呼び方でした。
AIが作った文章を書き写したとき、俺はそこにも違和感を持ちませんでした。母は先を読み上げないまま、便箋をたたみました。
「ありがとう。大事にするね」
俺は「うん」とだけ返しました。打ち明けることもできたのに、その場では言えませんでした。母は棚の上から古い菓子箱を下ろし、今回の封筒をその中へしまいました。隙間からは、昔書いたものらしい便箋が何枚も見えました。
そして...
帰りの電車に乗る前、俺は駅の売店で便箋を買いました。座席で広げ、最初に書いたのは
「かあちゃんへ」
その先は、すぐには続きませんでした。それでも今度は、自分で考えて最後まで書くつもりです。うまくまとまらなくても、母が待っていたのは、俺が考えて書いた言葉だったのだと思います。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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