「席替われよ」と常連客に凄まれた新人の私→焼き場の大将が返した言葉
いつもの席に先客がいた
私が働いているのは、駅前の小さな焼き鳥店です。
入ってきたのは、長く店に通っている常連のお客さんでした。いつも座るのは、カウンターの一番奥です。
けれど、その日はすでに別のお客さんが座っていました。空いているのはカウンターの端だけです。
私はおしぼりを持って声をかけました。
「すみません。今日はこちらのお席にご案内しています」
覚えた通りに伝えたつもりでした。
ところが、常連のお客さんは端の席を見ることもなく、「いつもの席だろうが」と、奥を顎で示しました。
「席替われよ」
私はもう一度、奥の席には先に来たお客さんがいることを説明しようとしました。
その前に、低い声が返ってきました。「席替われよ」
奥のお客さんに声をかけて、席を譲らせろという意味でした。
そんなことはできません。ただ、働き始めて間もない私は、常連のお客さんにどう断ればいいのか分かりませんでした。
「申し訳ありません」そう言って頭を下げると、「だから替わってもらえばいいだろ」と続きます。
周りのお客さんも会話をやめ、店内の空気が変わったのが分かりました。
私は次に何を言えばいいのか分からないまま、その場に立っていました。
焼き場から届いた言葉
そのとき、焼き場から声がしました。「席は、うちが決めます」顔を上げると、大将が串を置き、常連のお客さんを見ていました。
「先に座ってるお客さんを動かすことはしません」
常連のお客さんは何も言わず、大将を見返しました。しばらくして小さく舌打ちをすると、端の席へ腰を下ろします。
「……いつもの」
さっきまでより小さな声で注文しました。
大将は「はいよ」とだけ返し、また焼き台へ向きました。
私はようやく次のお客さんのところへ動きました。ほっとしたのと同時に、また同じことが起きたら、自分はどう案内すればいいのだろうとも考えました。
そして...
閉店後、大将は厚紙に、「お席はスタッフがご案内します」と書き、カウンターの見える場所に置きました。
私にも、「困ったら、客を動かす前に俺を呼べ」と言いました。
それから私は、満席のときの案内を自分でも言えるようにしました。
「申し訳ありません。空いているお席へ順番にご案内しています」
常連だからといって、先に座っている人を移動させる必要はない。そのことを分かったうえで案内できるようになっただけでも、以前とは違います。
あの日の常連のお客さんは、今も店に来ます。いつもの席が空いていない日もありますが、もう誰かを立たせるよう求めることはありません。
(20代女性・飲食店スタッフ)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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