私の日焼け止めを使い切った彼、夕食で差し出した紙袋と2枚の券
空になったチューブ
彼との旅行の初日でした。肌の弱い私は使える日焼け止めが限られていて、この1本も何度も試して選び、旅行のために新しく買ったものです。キャップを開けて確かめてから、私はベッドの彼に聞きました。「これ、使った?」。彼は目も上げずに答えました。「俺も焼けたくないし」。謝る様子はありませんでした。
坂の上の薬局で
ホテルの売店に並んでいたのは、肌の強い人向けのものばかりでした。フロントで教わった坂の上の薬局まで歩くと、棚の端にいつもの1本が残っていました。会計で店員さんが言いました。「ちょうど最後の1本ですね」。助かった、という気持ちの横で、ここまで歩かせた張本人は出がけにベッドでスマホをいじっていたのだと思うと、坂道の歩幅が自然と大きくなりました。買ったばかりの日焼け止めをポーチの奥にしまい、私はビーチへ向かいました。
「私も焼けたくないから」
パラソルの下に荷物を置いてまもなく、彼が手を伸ばしてきました。「ごめん、それちょっと借りていい?」。私は新しい日焼け止めにキャップをして、バッグの奥へ戻しました。「私も焼けたくないから」。彼は口を開けかけて、頭をかきながら売店のほうへ歩いていきました。戻ってきた彼の手には、値札のついたままの日焼け止め。普段の彼なら選ばない値段でした。少しだけ気が済んで、私は海に入りました。部屋に戻って私が横になると、彼は散歩に行くと言って出ていきました。
そして...
夕食の席で、彼がテーブル越しに紙袋を差し出しました。中にはいつもの日焼け止めの新品と、乗船券が2枚。「これ、取りに行ってた」。聞けば、私が起きる前に桟橋の窓口へ並び、今日の券を買ってきたのだと言いました。列の日差しの中で私の日焼け止めを塗り直すうちに空にしてしまったことも、散歩と言って出たのが隣町まで同じ物を探しに行くためだったことも、その席で知りました。「日焼け止めのことより、聞かずに使うことが嫌だったの」。そう伝えると、彼は頭を下げました。「勝手に使ってごめん。次からは先に聞く」。それから彼は、自分の日焼け止めを持参してくるようになりました。
(20代女性・販売スタッフ)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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