後輩の一皿に拍手が集まった帰り道、幹事の私は彼女に助手席を譲った
気が利く後輩だから
課の親睦BBQの幹事を任されたとき、真っ先に頭に浮かんだのは後輩の顔でした。細かいことによく気づく子で、頼んでも嫌な顔をしません。買い出しも設営も任せてしまえば、幹事の仕事はほとんど残りません。私自身、後輩のころは同じように動いてきました。だからこれは指導のつもりでもあったのです。当日、網を代わってほしいと言われたときも、深く考えずに笑って返しました。
「後輩なんだから当たり前でしょ」
彼女は軍手をはめ直して、焼き場へ戻っていきました。
薄い肉への不満
肉には、内心不満がありました。渡した予算のことは頭から抜けて、口をついたのは責める言い方です。
「もっといい肉、買えなかったの?」
彼女が何か説明していましたが、隣の先輩との話を優先して、最後まで聞きませんでした。幹事の椅子に座ったまま、私は焼けた肉を受け取るだけでした。焼き場に戻る背中を見ても、悪いとは思っていなかったのです。彼女が何度かクーラーボックスを開けて確かめる様子も、気に留めていませんでした。
見たことのない一皿
終盤、彼女がクーラーボックスから包みを取り出しました。切り分けられていくのは、塊から火を入れたローストビーフ。皿が回るたびに歓声がわき、部長まで席を立ちました。
「この肉、どこの?」
「実家で、朝から仕込んできました」
駅前の精肉店の名前を、部長は知っている様子でした。さらに同僚の一言が続きました。
「準備も買い出しも、全部彼女がやってくれたんですよ」
拍手が起きたその中心に、幹事の私はいませんでした。隣の先輩と目を見合わせて、手にしていた紙コップを卓に置きました。
そして...
片付けの間、彼女への謝り方をずっと探していました。解散の間際にようやく出てきたのは、謝罪になりきらない一言です。
「次は、私も仕込みから入れて」
彼女は少し間を置いて、首を縦に振りました。帰りの車で、行きには当然のように座っていた助手席を、彼女に譲りました。あの拍手を、今度は準備する側で聞いてみたいと思っています。
(30代女性・事務職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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